安倍晋三首相の辞任表明は、海外の市場関係者に大きな衝撃を与えた。アベノミクスは日本株を再評価するきっかけとなり、政策への関心も高かった。一方、金融緩和頼みで経済の構造改革は進みにくいとみて、日本株への関心は再び低下している。次期政権での株高持続の条件を海外市場関係者に聞いた。
海外勢には安倍首相の関心は次第に憲法改正などに移り、当初のような経済政策の推進力が損なわれたとの見方が強い。次期政権で、産業の新陳代謝を促し企業を強くする政策が進めば、「経済成長や株価の上昇余地が広がる」(米カンバーランド・アドバイザーズ)との声が聞かれた。
日銀の黒田東彦総裁の任期が2023年まで続くため、緩和路線の継続を見込む投資家が多い。日銀の追加策が限られるなか、次期政権の財政政策への関心が高い。
■官邸主導 継続カギ
ジェームス・ソルター氏(英ゼノー・アセット・マネジメント最高経営責任者) 安倍政権の後半は憲法改正などに注意が割かれ「アベノミクス」への勢いや関心が薄れていた印象がある。大胆な金融緩和策も、人口動態やイノベーション不足などの課題を抱える経済低迷に対する施策として成功といえるかは疑問符がつく。
安倍首相の重要な功績は「官邸主導」を推し進めたことだろう。内閣人事局を設けたように、官僚が政策決定に力を持ってきた古い体制を改めた。官僚機構が影響力を握るかつての状況に戻るような動きが出れば、市場は失望する。(ロンドン=篠崎健太)
■企業統治 改革再び
ドリュー・エドワーズ氏(米資産運用会社グランサム・マヨ・バン・オッタールーの日本株運用責任者) 日本企業各社に少数株主として投資し、2012年の安倍政権発足以降、大きな恩恵を受けてきた。辞任は残念だ。経済政策のうち、スチュワードシップ・コード(機関投資家の行動規範)の導入推進など企業統治を改革したことは高く評価している。
ただ、最近ではこうした経済改革よりも憲法改正などに注力していた感が強い。後継者はもう一度アベノミクスの初期の改革を重視してほしい。政策の大枠が変わることはなく、運用に大きな影響はないとみている。(ニューヨーク=伴百江)
■早期に景気回復を
ジェーソン・ドラホ氏(UBSグローバル・ウェルス・マネジメントの米州アセット・アロケーションのヘッド) 経済や政策の問題が辞任の理由ではなく、日本株投資への影響は限られる。新型コロナウイルスからの景気回復を支えるための財政・金融政策が必要で、目立った方針転換は考えにくい。日本株投資の方針変更は現時点で考えていない。
今後の日本株投資で重視しているのは、コロナ後の景気回復。米国株は主力ハイテク株を中心に割高感が意識されている。日本の景気回復が相対的に早ければ、投資配分を増やすことも考えられる。(NQNニューヨーク=戸部実華)
■財政出動が支えに
マーク・チャンドラー氏(バノックバーン・グローバル・フォレックスのチーフ市場ストラテジスト) 7年超に及ぶ異次元緩和でも物価低迷から脱却できず、低金利の長期化で金融機関の経営は悪化した。次期首相は金融緩和に前向きにならない可能性がある。米連邦準備理事会(FRB)の緩和長期化で、円高・ドル安が進み年末までに円相場は1ドル=102円台を試すだろう。
次期首相は財政出動の拡大は継続するだろう。日本株の支えになるが、円高は重荷だ。現状では投資資金が韓国や香港の株式市場に向かい、日本株の投資妙味は薄れている。(NQNニューヨーク=古江敦子)
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August 29, 2020 at 09:00PM
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