現在、多くの企業が各種業務および企業文化と組織の改革・変革に取り組んでいます。ビジネスにおける改革・変革において最もよく耳にする言葉がDX(デジタル・トランスフォーメーション)でしょう。その主目的はより効率的で付加価値の高い事業を達成することです。
一方で、自社の株主、従業員、顧客だけでなく、地域や世界にとって魅力的で信頼できる企業であることが、いま強く求められています。地球環境や社会という人類共通の基盤との親和性がない企業は中長期的に存立できないからです。
そこで、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)と呼ばれる、より大きな視点でのビジネス変革の推進が注目されています。
本記事ではSXの意味と背景を解説するとともに、その取り組み事例とDXやダイナミック・ケイパビリティといったキーワードとの関連性を整理します。
SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)とは?
SX(Sustainability Transformation:サステナビリティ・トランスフォーメーション)とは、持続可能な社会の実現に向けた企業の変革活動です。
世の中の不確実性が高まり、社会全体で持続可能性への要請が高まっている現代において、企業は社会的な存在としての価値を向上させなければ中長期的には生き残れません。そこで注目を集め始めた言葉が「SX」なのです。
「企業のサステナビリティ」と「社会のサステナビリティ」を両立する経営(サステナビリティ経営)への移行を、あらゆる企業が徐々に目指し始めています。
企業のサステナビリティとは、ビジネスモデルや事業の優位性などを中長期的に持続して強化すること。社会のサステナビリティとは、気候変動や感染症の流行といった重大課題に目を背けることなく対応し、今後の社会の姿を構築することです。
今後の日本において、SXは企業の大小を問わず避けては通れない命題となることは間違いありません。
SXと類似用語との違い
ここで、SXと類似するキーワード(SDGs,ESG,GX,DX)との違いを整理します。それぞれの意味を改めて整理することで、SXに対する理解がより深まるはずです。
SDGsとの違い
SDGsとは「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」の略称であり、2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。17のゴールと169のターゲットで構成されています。
SXもSDGsも人類がサステナブルな社会への移行を目指すための概念です。SXはそのために企業が行うべき具体的な行動と目指すべき将来像であり、SDGsを実現するために不可欠な変革だと位置づけることができます。
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ESGとの違い
ESG(イーエスジー)は、環境(E: Environment)、社会(S: Social)、ガバナンス(G: Governance)の頭文字を合わせた言葉です。気候変動や人権問題などの課題解決が重要視されている中、持続可能な世界の実現に必要な3つの観点を示しています。
ESGは主に投資の概念であるのに対して、SXは社会の持続性に留意した企業活動全体を指します。企業は投資家の意向を無視することはできないので、ESGはSX実現のための大きな推進力になり得ます。
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GX(グリーントランスフォーメーション)との違い
GXとは「Green Transformation(グリーン・トランスフォーメーション)」の略称です。カーボンニュートラル実現などのための活動や変革を指します。化石燃料に依存したエネルギーを再生可能エネルギーに置き換え、社会システムや産業構造を根幹から変革。CO2の削減と経済成長を同時に進めます。
日本政府は、2030年度に2013年度比で温室効果ガスを46%削減し、2050年までのカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させてプラスマイナスゼロにすること)を達成することを表明しています。その達成には、GX推進による社会システムの変革とすべての業界の企業の協力が不可欠です。
GXは環境問題の中でも温室効果ガスの削減に重きを置いており、カーボンニュートラルの実現がその大きな目標です。SXは環境問題だけでなく貧困や人権問題といった社会課題の解決もテーマとしており、GXを包括するような大きな概念と言えます。
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DXとの違い
DXは「Digital Transformation(デジタル・トランスフォーメーション)」の略称であり、デジタル・テクノロジーを活用してビジネスモデルや業務を変革し、企業競争力・企業価値の向上させることです。さらに、私たちの日常生活にも革新をもたらし、新しい価値を創造することを目指します。
一方、SXは、事業活動の持続可能性を重視した取り組みです。中長期的な視点で事業変革を行い、企業価値の持続的な向上を目指します。
SXとDXはどちらかを選んで取り組むものではありません。むしろ、SX実現のための不可欠なツールがDXと位置付けることができます。例えば、自社工場が排出する二酸化炭素の量を正確に把握して改善するためにデジタルツールを活用することが考えられます。SXとDXを統合して経営戦略を立てることが大切なのです。
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SXが注目を浴びている理由・必要性
ここからは、SXが注目を浴びている理由やSXの必要性について解説します。
世界情勢の変化
温室効果ガスによる気候変動の影響で自然災害や食料危機などが世界で多発しています。他にも、感染症の拡大(パンデミック)、紛争や戦争の勃発、技術革新の急激な進展、グローバルサプライチェーンの寸断など、現代は社会システムを一変させるような事象と隣り合わせです。
企業はこうした不確実性に備えつつ、成長を持続しなければなりません。そのためには、自社の利益だけでなく社会全体の持続性への貢献も求められます。環境や社会の健全な存続は、企業活動の土台だという認識が広がっているからです。これが、SXに真剣に取り組む企業が増えている最大の理由と言えます。
サーキュラーエコノミー(循環型経済)・リニアエコノミー(線形経済)との関連
目先の利益だけを追求する従来型の経済モデルを「リニアエコノミー(線型経済)」と呼びます。企業は「いま利益を出すこと」を目指せばよく、社会的な問題の解決は政府やNGOの仕事だと認識されてきました。そして、特に先進国は大量に生産し、消費し、廃棄してきたのです。
しかし、リニアエコノミーによる環境負荷の増大は地球の回復力を大きく超えてしまっているのは明らかです。このモデルを抜本的に改めて、経済・産業・生活が地球の再生能力の範囲内で循環する持続可能な経済活動「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」という概念が誕生しました。
従来の3R(リデュース・リユース・リサイクル)に加えて、資源や製品の価値を最大化する一方で資源消費は最小化し、廃棄・排出は抑制することが企業に求められます。
人間を含めた地球の生物が生き残るために、サーキュラーエコノミーへの移行を目指すことが世界の潮流になっています。そのために企業が取り組むべき変革がSXなのです。
ESG・SDGsとの関連性
SXやSDGsが実現した社会では、循環型経済が滞りなく機能しています。そこでは社会問題に配慮した持続可能な経済活動によって利益を生み出して成長する企業のみがESG投資によって支持され、存続を許されます。
このような将来に向けて、短期的利益重視の経営戦略と決別し、サーキュラーエコノミーの中で生きるために自社が取り組めることを洗い出して経営に反映することがサステナビリティ経営です。慈善事業ではないので企業規模は関係ありません。
なお、世界のESG投資額も増加傾向にあり、「社会問題への取り組み=ビジネスチャンスと投資をつかむ」という認識が一般化しつつあります。
人的資本経営の観点
企業を支えているのは人(人的資本)です。人的資本を重要視していない企業は持続的な成長は見込めません。企業への投資判断を行う際も、財務状況だけでなく人的資本情報もチェックするのが今や常識です。
欧米の上場企業などは、人的資本(Human Capital)に関する情報(人材投資額や社員満足度など)の開示が義務付けられています。日本でも、人的資本情報の開示義務化が進んでいます。2023年3月期より、大手企業4,000社を対象に、有価証券報告書に人的資本情報の記載が求められています。
人的資本を重視した「人的資本経営」はSXと密接に関わり合っています。企業が従業員の能力開発や働き方改革、多様性確保を適切に推進することは、企業の持続可能性と競争力向上につながると指摘されているからです。
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投資家観点
現在、投資家の間でも「企業成長と社会課題解決を同時に目指さなければ経済を維持できない」という考えが広まっています。
しかし、SXにおいて重視される「将来的なリスク」や「イノベーションに対する先行投資」、「経営の多角化」、「社会への貢献活動」などは直近の利益とは結びつかず、短期的な利益を求める投資家の理解を得にくいのが現実です。企業は、投資家との対話の機会を可能な限り設けて、SXによって投資家が得られる中長期的なメリットや社会的意義を丁寧に説明する必要があります。
ブランディング観点
環境問題やガバナンスに対する意識が国内外で高まっている現在、地球環境や社会の健全な持続に反する行動をした企業は後退や解体を迫られるケースも少なくありません。そのような状況でSXに真剣に取り組む姿勢を示すことは、企業ブランドの向上に直結します。
就職先としてもSDGsなどのサステナブルな取り組みに積極的な企業を重視する傾向が若い世代ほど高まっているとも言われています。SXの推進は、投資や利益だけでなく、優秀な人材の確保にもつながっているのです。
参考文献:若年層のサステナビリティに関する意識と消費行動について – MUFG
参考文献:イマドキの新卒採用~若者のSDGsへの関心~ – りそなBizAction
SXを経営戦略の根幹に据える「サステナビリティ経営」とは?
企業は利益を生み出し、その一部を環境や社会に貢献する――。かつてのCSR(企業の社会的責任)の発想です。その企業活動自体で環境に負荷をかけても地球の自浄作用で修復できるとみなされ、コストには反映されてきませんでした。このような経済活動を「外部不経済」と呼びます。
しかし、気候変動や資源の枯渇を世界中の人々が実感するようになった今、外部不経済を無視することはもはや許されません。規制は強化され、ESG投資も浸透し、消費者の行動も変わってきています。また、企業は原材料や人材の不足に直面。不正行為やハラスメントはSNSで拡散される時代でもあります。
世界でどのような変化が起きているのかを理解し、自社が持っている強みと能力(ケイパビリティ)で取り組むべき社会課題を設定すること。その達成に自社の通常能力では不十分であるならば社内で変革を起こすこと(後述するダイナミック・ケイパビリティ)。
以上がSXであり、サステナビリティ経営の本質です。単発の小さな取り組みではなく、経営戦略そのものであり、全社的な改革(トランスフォーメーション)が必要なのです。
参考文献:pwc Japan「『外部不経済』を取り込み、収益も上げる」
「SX銘柄」によるSX推進の後押し
2021年5月、経済産業省は、「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」での議論を引き継ぐ形で、企業、投資家、有識者から成る研究会「SX研究会」を立ち上げました。
長期的かつ持続的な企業価値の向上について議論し、その成果を2022年8月に「SX版伊藤レポート(伊藤レポート3.0)」及び「価値協創ガイダンス2.0」として公表。長期的かつ持続的な企業価値向上のためにはSXをキーワードとする経営変革こそが必要不可欠、とのメッセージを発信しました。
「今後、多くの日本企業がSXの視点による事業再編や新規投資を通じて価値創造を進めるためには、その実現に向けた取組を投資家等も含めたインベストメントチェーン全体で推進していくことが重要」という課題意識の下、経済産業省と東京証券取引所は、「投資家等との建設的な対話を通じて、社会のサステナビリティ課題やニーズを自社の成長に取り込み、事業再編・新規事業投資などを通じて、長期的かつ持続的な企業価値の向上に取り組んでいる」企業を、「SX銘柄」として選定・表彰しています。
SX銘柄の公表には2つの目的があります。
- 企業経営者の意識変革を促し、投資家との対話を通じた経営変革を期待すること
- その上で、国内外の投資家に日本企業が向かう変革の方向性を知らせること
SX銘柄は、今後の日本株全体の方向性を示しているとも言え、SXを強力に後押しする可能性があります。
参考文献:経済産業省「『SX銘柄』を創設します」
SXによるビジネス事例(国内)
ここからは、SXに関連するビジネス事例をご紹介します。まずは国内における事例から見ていきましょう。
※所属部署・役職は取材当時のものです
【エーザイ株式会社】リンパ系フィラリア症の治療薬「DEC錠」を途上国で無償提供
世界で最も持続可能な100社「2023 Global 100」に選出された製薬企業です。
※「2023 Global 100」とは、カナダの投資調査会社であるコーポレート・ナイツ社が世界中の大企業(収益が10億米ドルを超える約7,000社)を対象に、ESGなどの観点から持続可能性を評価して上位100社を選出するもの。2023年はコニカミノルタ、エーザイ、積水化学工業、リコーの4社が日本企業としてランクインしています。
エーザイは「患者様と生活者の皆様の喜怒哀楽を第一義に考え、そのベネフィット向上に貢献することを企業理念と定め、ヒューマン・ヘルスケア(hhc)理念と呼んでいます。それを定款にも規定し株主などのステークホルダーとも共有。短期志向の投資家からの人件費や研究開発投資の過度な削減要求をはね返せるようにしています。
同社は、SDGsの指標3.3.5である「顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases、以下、NTDs)」の制圧に注力していることでも有名です。NTDsは途上国などの貧困層で蔓延し、世界で17億人の人々がその感染リスクに晒されているとされています。2010年から世界保健機関(WHO)などと共にNTDsの一つであるリンパ系フィラリア症の制圧に向けて治療薬「DEC錠」の無償提供や疾患啓発を推進。2018年時点の感染者数は5100万人で、2000年にWHOの「世界リンパ系フィラリア症制圧計画」が開始されて以来74%減少。7億4,000万人が予防的化学療法を必要としなくなりました。
参考文献:エーザイ株式会社「サステナビリティ>トップメッセージ」
参考文献:日本WHO協会「リンパ系フィラリア症」
「『無償提供は株主価値の破壊ではないか』という批判も一部にあったが、当社では寄付ではなく、『プライス・ゼロ』のビジネスとして取り組んでいる。これは市場創造への投資であり、地域の方々の病気が治り、働けるようになれば、中間所得層が拡大し、結果としてわれわれの薬が購入され新興国ビジネスが拡大するという考え方だ。医療品アクセスへの貢献によって、開発途上国・新興国でエーザイのブランドエクイティが向上し、長期的な株主価値の向上につながる」
引用元:日本企業の市場価値を高めるESGと財務情報の相関性についての定量的な開示【前編】
<坂野俊哉・磯貝友紀『SXの時代』エーザイ専務執行役CFO柳良平氏へのインタビューより抜粋>
【SMBCグループ】温室効果ガス排出量の算定・可視化クラウドサービス「Sustana(サスタナ)」
「最高の信頼を通じて、お客さま・社会とともに発展するグローバルソリューションプロバイダー」を目指して、金融機関の枠に囚われない挑戦に取り組んでいる株式会社三井住友フィナンシャルグループ(以下、SMFG)。顧客の課題だけでなく、「社会」の課題解決への貢献も目指しています。
執行役専務グループCIOの内川淳氏は、このビジョンを実現するためのキーワードとして、「情報産業化」を掲げ、DXを柱にビジネス戦略を組み立てようとしていると語ります。
「その一例が、温室効果ガス(以下、GHG)排出量の算定・可視化クラウドサービス『Sustana(サスタナ)』です。温暖化対策は世界規模の取り組みで、日本企業にも当然のこととして求められています。
しかしそもそも自社がどれだけのGHGを排出しているかを把握できていないのが現実です。そこでGHG排出量を可視化するツールを提供し、次の打ち手を考えられるようなサービスを開始。既に100社を超える契約をいただきました。Sustanaを通じて具体的なGHG排出量の削減目標や削減方法を提案し、その実現をサポートしていくことにつなげていきたいと考えています」
SMBCグループにおけるデータドリブン組織への変革に向けた取り組み
SMFGは金融業界を超えて、あらゆる産業のデジタル化に貢献し、SXを推進することを目指しているのです。
SXによるビジネス事例(海外)
続いて、海外におけるSXビジネス事例をご紹介します。
【アップル】2020年にカーボンニュートラルを達成。iPhoneの完全循環型リサイクルが目標
100%(完全循環型)リサイクルの実現を目指しているアップル。具体的には、古いiPhoneから新しいiPhoneを作り出すことです。すべての製品とパッケージを100%リサイクルされた素材および再生可能な素材を使ってつくる、という野心的な目標を掲げています。スマートフォンの製造に必要な原料を永続的に確保しつつ、ブランド価値も上げようという戦略です。
同社は2020年にはグローバルな事業活動においてカーボンニュートラルを達成。2018年以降はオフィスや店舗、データセンターの電力を100パーセント再生可能エネルギーに頼っています。自社だけでなく主要な製造パートナーのApple関連事業を脱炭素化する取り組みを評価し、年ごとの進捗状況も追跡。グローバルサプライチェーンとすべての製品のライフサイクル全体でカーボンニュートラルを達成すると約束しています。
参考文献:アップルジャパン株式会社「Apple、2030年までにサプライチェーンの100%カーボンニュートラル達成を約束」
参考文献:アップルジャパン株式会社「Apple、製品全体で再生素材の利用を拡大」
SX推進に必要な「ダイナミック・ケイパビリティ」
ここで、SXと関連性のある「ダイナミック・ケイパビリティ」について言及します。
ダイナミック・ケイパビリティとは?
企業変革力すなわちダイナミック・ケイパビリティは、環境や状況の変化に合わせて企業活動を変革していく能力です。対義語は通常能力(オーディナリー・ケイパビリティ)。社会の不確実性が高まり、通常能力だけでは適応しきれない状況ではダイナミック・ケイパビリティが必要です。企業を変革して、新たなオーディナリー・ケイパビリティを構築する力とも言い換えられます。
ダイナミック・ケイパビリティは以下の3つの能力に分類できます。
- 感知(センシング):変化によって生まれる脅威や危機を感知する能力
- 捕捉(シージング):変化の本質を捉え、既存の資産・知識・技術を使って新たな競争力を獲得する能力
- 変容(トランスフォーミング):捕捉で得た競争力を持続的なものにするため、組織全体を変容する能力
環境や資産の変化に合わせて企業を再構成する能力は、外部から調達することが難しく、内部で生み出す必要があります。それだけに他企業には模倣されにくい能力です。企業競争力の向上と維持に貢献します。
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ダイナミック・ケイパビリティの強化とSX
企業が持続的に成長していくためには、ダイナミック・ケイパビリティを構築し、強化していく必要があります。そのためのキーワードがDXです。
たとえば、新たなデジタル技術の導入によって迅速なデータ収集や正確なデータ分析が可能になれば、「感知力(Sensing)」や「捕捉力(Seizing)」は大きく向上するでしょう。また、「変容力(Transforming)」を高めるためには、DXへの取り組みが必要不可欠です。
データを取り扱う技術があれば、外部環境の変化を素早く感知して柔軟に変容していくことが可能です。たとえば、デジタル技術を活用したデータの収集や分析によって、脅威や危機をいち早く察知して回避する能力は高まるでしょう。また、AIで環境や状況の変化を予測することは不確実性によるリスクの低減に効果を発揮します。全社的な変革であるSXにはダイナミック・ケイパビリティの強化が不可欠であり、それを支える基盤がDXなのです。
SX推進に必要なポイント
SX推進に必要なポイントは、
- 利益確保と同時に(同じぐらいの熱量で)環境や社会に配慮すること
- それを実現できる具体的な仕組みを構築すること
です。全社的な取り組みであるため一朝一夕にはいきません。
SXを実行しようとすると、「コストがかかる」「短期的には利益につながらない」といった社内的な壁にぶつかります。しかし、「Aを犠牲にしてBを実現する」というトレードオフではなく、「AもBも実現する」というトレードオンを目指すことが肝要です。
経済・利益と環境・社会は中長期的に両立させなければならないし、それができない企業はやがて市場から退場を迫られるでしょう。たとえば、製品を売るのではなく、製品を貸し出してその利用料を得ること。製品の長寿命化によって廃棄量とコストを減らしつつ、顧客を囲い込むことで長期的な利益を得られます。
また、廃棄物を単に再利用(リサイクル)するのではなく、新たな用途の高付加価値商品として生まれ変わらせること(アップサイクル)も考えられます。いずれも簡単ではないだけに、時間をかけてでも確立すれば競争力と優位性の源泉になり得ます。
中長期的な外部変化を捉えて行動するビジネスマインドを持ち、変革に粘り強く取り組むこと。それがSX推進の最大のポイントです。
参考文献:pwc Japan「ノウハウよりも『価値観』のアップデートが必要だ」
まとめ
リニアエコノミー(線形経済)における競争の結果、天然資源は枯渇し、海は汚染され、異常気象の被害が増大し、生物多様性は失われつつあります。従来型の経済では限界が見えているどころか破滅の道を辿ることが明らかです。
昔は人間も地球の生態系の一部として循環しながら暮らしていました。現代社会の便利で安全な生活を捨てることはできないのであれば、最新のテクノロジーも活用したSXによってサーキュラーエコノミーに移行する必要があります。
SXは、社会のために役に立つ活動をするという企業の本質を取り戻すための変革とも言えます。この点で、SDGsの目指す未来と重なります。企業はその規模にかかわらずSXに取り組まねばなりません。個人も社会のサステナビリティを意識した選択を心掛けることできます。地球や社会というかけがえのない基盤を中長期的に持続するためにそれぞれが努力して貢献する――。SXはこれからの常識になりつつあります。
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