持続可能なわが国のHIV感染症/AIDS治療に関する情報収集・解析システム構築のために
(IASR Vol. 44 p163-164: 2023年10月号)HIV感染者/AIDS患者(以下, HIV陽性者)の予後が改善され, 長期療養体制を整える必要が生じた。2018(平成30)年に全面改正された「後天性免疫不全症候群に関する特定感染症予防指針(エイズ予防指針)」は, エイズ治療の拠点病院(以下, 拠点病院)が拠点病院以外の施設とも協力して地域包括的なエイズの診療体制再構築を行うことを求めている。そのためには, 拠点病院のHIV感染症/AIDS治療(以下, エイズ治療)に関する現況の把握および課題抽出が重要で, わが国のエイズ治療にかかわる悉皆性の高い情報を継続的に収集・解析可能なシステム構築が必要である。
そこで, 「HIV感染症の医療体制の整備に関する研究」班では, 2015(平成27)年度から調査票の郵送による拠点病院の診療の現況調査から, 2022(令和4)年度には, 厚生労働省の協力のもと, 医療機関等情報支援システム(Gathering Medical Information System:G-MIS)による情報収集システムへの移行・事業化を行った。
エイズ治療拠点病院(377施設)を対象に, 2021年10月1日~12月31日の間に定期通院中のHIV陽性者に対するエイズ治療の現況を調査した。回答および解析組入率は100%であった。拠点病院の定期通院者総数は28,106人で, 最多は東京都の10,201人, 最少は島根県の33人であった。東京都, 神奈川県, 千葉県, 埼玉県, 愛知県, 大阪府および福岡県の7都府県の拠点病院への定期通院者総数は20,070人で全体の71.4%, 定期通院者100人以上の55施設への定期通院者総数は21,879人で全体の77.8%を占め, 特定の地域, 特定の拠点病院での診療の集約化が進んでいることが明らかになった(図a)。
先行研究1)の解析方法に従い, 拠点病院に定期通院中の外国国籍HIV陽性者数および拠点病院で把握された累計死亡者数を用いて算出した既診断者数から算出した抗HIV療法の継続率は94.8%, 治療成功率は99.6%で, これらの成績は地域や施設の定期通院者数に依存しなかった(図b)。なお, 本解析における治療成功の定義は「HIV RNA量を6カ月以上安定して200コピー/mL未満に抑制できている状態」である。
G-MISによる診療現場からの情報収集は, 治療効果などの臨床情報を得られることが大きな強みである。さらに, 死亡者数や通院中の外国国籍HIV陽性者数など, 人口動態調査の死亡個票の解析やエイズ病原体感染者報告票では把握困難で, 診療現場からの情報提供に依存せざるを得ない重要項目の調査も可能にした。
また, 合併症や併存疾患および高齢化といった課題への対応が主となったエイズ治療において, それらの情報の収集・解析は, 新たな拠点病院診療体制の構築に向けた施策決定のために重要である。しかしながら, 定期通院者の属性や抗HIV剤の使用状況および他疾患の治療状況等の情報提供を診療現場に求めることは負担が大きく, 質の評価・担保も困難である。
わが国では, 指定自立支援医療機関のほとんどが拠点病院であり, 新規にHIV感染が判明したHIV陽性者のほとんどが拠点病院を受診し, 抗HIV療法が導入・継続されてきたことから, 拠点病院の調査により日本全体のエイズ治療の現況を把握することが可能であった。しかしながら, 近年, エイズ治療拠点にかかわる拠点病院以外の施設が増加し, 研究班で同時に実施した調査票による解析からは, 5ブロック17の拠点病院以外の施設に2,341人が定期通院し, 2,280人が治療継続で, 2,276人が治療に成功していることが明らかになった。実際には, より多くの医療施設でエイズ治療が提供されていると推測されるが, すべての施設にG-MISによる調査を依頼することは困難である。
今回, 持続可能なわが国のエイズ治療に関する情報収集・解析システム構築のために, 研究班ではG-MISの活用を試み, 拠点病院から悉皆性の高い基本情報の収集が可能であることを明らかにした。今後, 本システムの運用については, 診療現場に過度の負担にならないようにすること, また, 医療者との連携により情報の質を維持すること, が重要である。また, 上述したようなG-MISでは把握困難な情報を収集・解析できる体制の構築が必要である。
たとえば, レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)や, 自治体が持つ身体障害者手帳交付にかかわる情報等の解析により, HIV陽性者の診断後の療養状況をより詳細に把握することが可能になると思われる。特に, NDBの活用は, 網羅的な疫学・診療情報の収集を可能にするのみならず, 診療現場の努力に依存することなく, 日本のすべてのHIV陽性者の後方視的コホーティングとその診療状況の継続的解析を可能にする可能性がある。G-MISおよびNDBの活用によるエイズ治療の現況の可視化は, 今後の日本のエイズ診療の施策立案および成果評価に有用であり, 必須であると考えられるとともに, 他疾患の同様の取り組みに対してもよいモデルになると思われる。
本報告は, HIV感染症の医療体制の整備に関する研究班(課題番号:20HB2001)の分担研究者らによって行われた研究成果である。また, 情報の収集, 解析および公開等については, 国立病院機構名古屋医療センター臨床研究審査委員会で承認を得た(整理番号:2016-86)。
参考文献
- Iwamoto A, et al., PLoS ONE 12: e0174360
- 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策政策研究, 「HIV感染症の医療体制の整備に関する研究」班 研究報告書(令和4年度)
からの記事と詳細 ( 持続可能なわが国のHIV感染症/AIDS治療に関する情報収集・解析 ... - 厚生労働省-戸山研究庁舎 )
https://ift.tt/K7dVNRo
No comments:
Post a Comment