多くの企業が持続可能性をエコロジカルなものと定義している。2021年,我々はパネリストを招き,ゲームスタジオやパブリッシャをより持続可能にするための方法,たとえば二酸化炭素排出量の削減や,視聴者の気候変動に対する意識の向上などについて語ってもらった(関連英文記事)。
ゲームマーケティングエージェンシーのYrs Trulyでは,持続可能性が他の形でも実現可能であることを示すために,ゲーム業界のすべての企業が,物理的な商品を生産しているかどうかにかかわらず,持続可能となれることを示した。
持続可能性を環境への影響という観点からしか考えていない人々を見ると,少しフラストレーションが溜まります
「持続可能性を環境への影響という観点だけで考えている人を見ると,少しフラストレーションが溜まります。多くのゲーム会社は,『そうか,私は物理的なものを生産していないので,これは私には当てはまらないんだな』と言うからです」Yrs Trulyの創設者であるMJ Widomska氏はGamesIndustry.biz ACADEMYにこう語る。「持続可能なビジネスとは,長期間持続できるように運営されるビジネスのことです」とWidomska氏は,持続可能性を3つの柱(経済政策,社会,環境への影響)に分類し,ゲーム業界の多くの企業は,とくに財務的に存続可能で長期的に安全な企業を作ることで,経済的に持続可能になれ,そのためにもっとできることがあると主張している。
あらゆる成長の機会を利用するな
「私が講演の中で最も物議を醸したことの1つは,あなたが成長の機会をすべて利用しているのであれば,それはおそらく持続可能ではない,というものです」と氏は語った。「たとえ人を雇う機会を得たとしても,それ以上の規模のチームを維持する体制が整っていなければ,持続可能な働き方をしているとは言えません。あるプロジェクトで1年間雇用され,その後解雇されます。ひどい方針ですが,ゲームではよくあることです」
Widomska氏によれば,持続可能な雇用は,短期契約にまつわる経済的不安を軽減する。また,労働者が定住し,地域コミュニティの一員となることも可能であり,これらはすべて,人々が最高の仕事をするための要素でもある。
「持続可能性という言葉は,自分を薄く広げることなくうまくいくように集中することで,良い製品や環境を生み出すことを意味しています」と氏は語る。「持続可能な仕事をしていなければ,資源を無駄にしていることになると私は強く信じています。あなたは,人々が交流したいと思わないようなゲームを作ることになり,あなたのチームはストレスを感じ,最終的にあなたの仕事は無駄になるでしょう」
適切な成長機会を見極める
成長に最も適したタイミングを見極めるために,Widomska氏は,会社を全体的に見直すことを提案している。これは,チームの構成や従業員のスキルセット,仕事内容から,マネジメントスキルや企業文化までの広範囲に及ぶものだ。これらの要素をすべて考慮したうえで,新たな人材を投入することが,既存の構造を損なうことなく役立つのかどうかを判断する必要がある。
「成長の機会を得たいと思うのは自然なことですが,成長とは理想的には何年もかけて行われるべきプロセスです」とWidomska氏は説明する。「莫大な資金を調達して多くの人を雇っても,数年後には破綻してしまう新興企業をどれだけ見てきたことでしょうか。毎年チームを倍増させるチャンスはあるかもしれませんが,それをやっても同じ倫理観やモラルを保ち,仕事が変わらず良いものであることや,人々がまだあなたの会社を気にかけていることを確認するのは非常に難しいことです」
成長への誘惑に負けるな
Widomska氏は,自身の代理店Yrs Trulyに関して,成長させるかそれともさせないのかという難しい決断をした経験があるという。
もしあなたが,利用可能なすべての成長の機会を取っているなら,あなたはおそらく持続可能ではないでしょう
「我々は,本当に大きなクライアントと仕事をする機会を与えられたのですが,残念なことに,一度に数人を雇用しなければならないことに気づいたのです」と氏は語る。「我々は11人でしたので,我々のような規模の会社があと3人雇うということは,25%の増員を意味します。我々にはそんなことをする財政的安定性はありませんでした。我々は,年に数か月分の営業経費を積み立てて,何かの糧にしたいのです。大口の顧客が辞めたときに,従業員全員を解雇しなければならないような事態は避けたいのです」資本主義では成長が期待されている。とくにベンチャーキャピタルが出資する企業には。 しかしながら,Widomska氏はこいった期待にはまったく好意的ではなく,持続可能性を積極的に妨げているものだという。
「自然界には指数関数的な成長の例などはありません。ですので,このアプローチが実際にうまくいくと信じる根拠はないのです」と氏は語る。「このような成長の多くは,人を雇い,問題を起こし,人を解雇し,より良い結果を出し,また人を雇うという循環によって人為的に生み出されています」
Widomska氏は,実際には企業は成長せず,その代わりに,再挑戦する前に成長前の状態に戻ってしまうのだと強調した。
社会に良い影響を与える
経済的な持続可能性を念頭に置いて会社を経営するということは,労働者にとって理想的な環境を作るということでもある。いつまでも職を失う心配をしている労働者は,最高の仕事を生み出すことができない。その代わり,従業員が最高の仕事をできるような企業文化を作る必要がある, なぜなら,これは良い仕事は経済的な利益をもたらすという理由だけでなく,労働者は無限の資源ではないからだ。
「持続可能な働き方とは,再生可能な資源を活用すること,あるいは自分たちのニーズを満たすことで次世代のニーズを満たす能力を損なわないことです」とWidomska氏は語る。「人々に公平な報酬を支払い,社会的なインパクトを与えたいという願望が必要です」
Widomska氏自身が認めているように,ゲームの社会的インパクトを意識し,それを良いことに利用することは非常に重要だが,だからといって,すべての企業がメディアの注目を集め,可能な限り大きなインパクトを与えるために大規模なプロジェクトに参加する必要はない。むしろ,社会的影響とは,労働者やそのコミュニティにポジティブな影響を与えることでもある,と氏は提案する。
持続可能な働き方とは,再生可能な資源を利用すること,あるいは自分たちのニーズを満たすことによって次世代のニーズを満たす能力を損なわないことを意味します
「我々の会社では,みんながオフィスのとても近くに住んでいます。ロンドンや地元に住んでもらうことで,給料を上げなければならないことは理解しています。つまり,職場が地元コミュニティの延長のように感じられるのです」と氏は語る。「たとえば,地元の交通量を増やさないようにするため,さらに地元でランチを買うことを奨励するため,外部からのケータリングは避けています。また,地元の学校と話をして,地元の慈善団体を支援し,地元企業との連携を深めています」Widomska氏はまた,インクルーシブな職場環境を作り,インクルーシブなクリエイターとだけ仕事をするなど,ビジネスのあらゆるレベルで多様性を奨励している。さらに彼女は,企業文化や製品に影響を与える倫理規範のようなものについても述べていた。
「すべてのゲームに環境に配慮したメッセージを盛り込むとか,そんなことを企業に期待するのは無駄なことだと思います。 しかし,あなたが有意義なことをどう定義するかにかかわらず,有意義なものを創造しているかどうかを考えることはできます」
「誰も食べたがらない食べ物に多くの資源を投入することを想像してみてください。ゲームの場合,これは人々がプレイしたいと思うゲームを作らなければならないことを意味し,リソースに目を光らせていなかったり,労働者が過重労働をしていたり,管理が行き届いていなかったりすると,それは実現できません」
もちろん,人々がプレイしたいと思うようなゲームを作るのに,安全な方法などない。しかし,Widomska氏にとっては,ビジネスのあらゆるレベルで持続可能であることが,必然的に良いゲームにつながるのだ。なぜなら,あらゆるレベルのクリエイターが最高の仕事をする力を与えられるからだ。
Yrs Trulyは週4日制の導入にも成功している。
「我々は週休4日制の試験的導入の結果を調べました(参考URL)。週休4日制を試行した企業の92%がそれを継続しており,反対論は皆無でした」とWidomska氏は語る。
しかし,同社は金曜日を通常の休日のようには扱っていない。その代わり,従業員は積極的に仕事には関わらないが,必要であれば働けるようなポジションに留まり,事実上オンコール状態である。
「金曜日は土曜や日曜と同じ日とは考えていません。なぜなら,この業界ではまだ多くの人が働いているからです」とWidomska氏は説明する。「必要であればチームを編成できるよう,メッセージのチェックを続けてもらう必要があります」
Widomska氏は,金曜日にチームをオフィスに呼ぶ必要はまだないと強調するが,選択肢をオープンにしておくことで,クライアントだけでなくチームもサポートされていると感じることができると主張している。
多様性と持続可能性による風評被害を避ける
Widomska氏によれば,持続可能な方法で仕事をしない企業は,ますます評判を落とすことになる。「(持続不可能な形で)ゲームを作り続けているスタジオはありますが,そのスタジオから多くの人が去ってしまったため,もはや同じスタジオがゲームを作っているようには感じられなくなっています」
観客は,ゲーム業界における職場の虐待や,労働組合の取り組みについて,より強く認識するようになった。最新のゲーム産業実態調査によれば(参考URL),ほとんどのゲームデベロッパは労働組合結成に賛成しているが,Widomska氏は視聴者も同じだと考えている。
Widomska氏はまた,ビデオゲームをプレイする人は,ベジタリアンになったりLGBTQ+に属する可能性が人口平均より高いことを示唆する数字(参考URL)についても指摘している。また,気候変動への関心が高く,政治的関心も高いという。このように,プレイヤーが関心を寄せる活動に参加することは,すべての企業にとって最善の利益となるのだ。
「我々は今,女性がゲームをプレイし,有色人種がゲームをプレイすることを認識しています。しかし,多くの企業は,彼らの関心事に関与する代わりに,これらの人々がゲームをプレイしているため,我々が以前に特定したステレオタイプのゲーマーと同じ関心を持っていると仮定しています」とWidomska氏は語る。「しかし,多様な視聴者を認識するには,ゲームとそれを作る企業の両方に反映される,より多様な関心事についても認識する必要があります。ゲーマーは受動的ではなく,持続可能性に多くの関心を寄せているのです」
持続可能性を推進するには
ゲーム業界で持続可能性を高めるには,まず最初にWidomska氏が言っているようなコンセプトを広く浸透させる必要がありそうだ。
「本当に役立ってくるのは,労働組合の拡大と法整備,そしてインディーズやパブリッシャのサステナビリティに対する理解を深めることでしょう」と氏は語る。法整備のための努力は,多くの企業にとって影響力のあるようなものではないかもしれないが,持続可能という言葉を広め,そのような事業運営を広めることは,どの企業にとっても良い取り組みとなるだろう。
Widomska氏は,このトピックの講演者としての活動に加え(関連英文記事),Yrs Trulyは,企業の持続可能性と社会的影響を評価する世界的な国際認証であるB Corporationの認証を受けている(参考URL)。
ゲーマーは受動的ではなく,持続可能性に関心が高いのです
Widomska氏はまた,独立系ゲームスタジオが変化をもたらす最大の原動力になりうると考えている。大企業はしばしば株主の要求を考慮しなければならないが,その株主の大部分はゲーム文化の経験がないかもしれない。一方,インディーズゲームスタジオ,とくに業界のベテランが率いる「AAAインディーズ」スタジオは,変革を推進する最良の立場にある。「より大きな自主性を持ち,ゲームに関心のない人たちのいいなりにならないこと。それらによって 週休4日制の実現など,より早く変化を起こすことができます。最初から持続可能な製品を作れば,それが可能であることを他の人に示すことができます」と氏は語り,全員の努力が重要である一方で,ベテランの次のプロジェクトに興味を持つプレイヤーから宣伝や注目を集めるスタジオは,Yrs Trulyのような小さなマーケティング会社よりも持続可能性を促進するのに有利な立場にあると強調する。
Widomska氏が確実に知っていることは,労働者と観客のニーズを見極め,彼らがいる場所で観客に応えることで,ゲーム業界全体がより良くなるということだ。
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本記事はJames Batchelorによるインタビューです
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