欧州化学工業連盟(Cefic)は4月19日、欧州化学業界において持続可能性を高めるためのデジタル技術をテーマにした研究報告書を発表した(プレスリリース)。デジタルやサステナビリティ分野の専門家15人や、業種、規模、地域など化学業界を幅広く代表する50社の70人以上の専門家に聞き取りをして、人工知能(AI)やビッグデータといった技術がいかに業界の変革を加速するか、活用例と活用促進に向けた提言を示した。
デジタル技術が持続可能性目標に貢献するための優先事項として、報告書は(1)気候および循環性目標の達成に向けた生産設備の設計や製造、(2)持続可能性評価、(3)トレーサビリティによる原材料や化学品の循環性向上、(4)持続可能な製品設計、(5)安全で効率的な物流、の5点を挙げた。具体例として、動物実験に頼らない方法として注目を集めているAIを活用した化学品の有害性・安全性評価や、欧州化学物流情報協議会(ECLIC)による輸送・物流情報のデータ共有サービスなどが紹介された。
一方、デジタル技術活用の課題として、データの入手可能性、互換性、標準化、サイバーセキュリティー、従業員のデジタルスキル不足に加え、他社とのデータ共有やコスト負担への不安が挙げられた。企業間やサプライチェーンでの連携は重要との認識はあるものの、自社の機密データや知的財産の保護、競争力の低下に懸念を持つ企業もある。コスト面では、調査対象企業の約半数が、現在の厳しい経済状況を考慮し、望ましい結果がすぐに得られないかもしれないデジタル化への投資をちゅうちょしていると回答した。デジタル化だけでなく、脱炭素化に向けた大規模投資や、システムの更新、メンテナンスコストの上昇などが重荷になっていることが分かった。
企業への提言としては、(1)化学バリューチェーン全体で実現可能な法的枠組みの模索、(2)データや技術の標準化への取り組み、(3)循環性や持続可能性の向上に関連する技術に的を絞った投資、(4)デジタル技術活用のベストプラクティスの実践と結果の共有、(5)EUのデジタル関連政策・規制の策定、実施により積極的な役割を果たすことなどを挙げた。
また、EUと緊密な連携を深める必要があるとして、EUに対し、(1)デジタル技術関連の政策、規制の一貫性、(2)データの標準化や、自動車業界のカテナ-X(2021年5月11日記事参照)のような化学品関連企業間のデータ共有のためのメカニズムの構築支援、(3)デジタル技術の活用が遅れる企業への対応策についてのリスク共有対策を検討し、特に中小企業への支援を行うことを求めた。
(滝澤祥子)
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