経産省がビジネスモデル提案
国内の繊維・アパレル業界は供給過剰による在庫や廃棄の問題を抱え、価格競争にも陥っている。一方でデジタル技術が発達し、新しい市場が生まれている。経済産業省は「ファッションの未来に関する報告書」をまとめ、その中で業界を持続可能にする10のキーワードを提示した。大量生産・薄利多売から脱却する新しい収益モデルは、他業界にもヒントとなりそうだ。
経産省がまとめた190ページを超える報告書には鮮やかなグラフや図形が並ぶ。内容を議論したデザイナーやアパレル代表がポーズを決めた写真もあり、行政の報告書というよりもおしゃれなカタログという感じだ。
繊維・アパレル業界が直面する課題の一つに環境問題がある。同業界の温室効果ガス排出量は世界全体の6%を占める。染色などに大量のエネルギーを消費するためだ。さらに国内市場は、構造的な問題を抱えている。
欠品を防ぐため年40億点の衣類を供給するが、多くが売れ残る。しかも国内で流通する商品の9割以上が輸入品。日本の業界は海外で環境負荷をかけて生産した商品を廃棄している。またアパレルや小売りは、消費を刺激しようと値下げをして収益をすり減らしている。
報告書は解決策として「需給ギャップを縮小させるビジネスモデル」「良いモノを長く楽しむファッション文化」を提言した。人工知能(AI)を活用した需要予測や3Dスキャナーで個人に合った服を作る受注生産によって供給過多を解消する。また、複数の人と共有するシェアリング、不用になった衣類を売るリセール(転売)ビジネスが廃棄を抑制する。ただ、企業にとっては新品の売上高が減るので、転換は難しい。
そこで報告書は「リセール市場における収益分配」を提唱した。衣類が中古となって取引されるたびに、制作者や産地に収益が入る仕組みだ。経産省ファッション政策室の俣野敏道室長は「歌われるたびに著作権使用料が作詞・作曲家に入るカラオケ」と例える。取引記録の管理には、改ざんを防げるブロックチェーン(分散型台帳)技術を使える。
中古品転売 産地にも収益
魅力的な商品ほど転売市場でも価値が高く、企業には収入源になる。新品の単価アップも期待できる。消費者は転売を前提に購入するので、新品の価格を割高と感じなくなるためだ。単価が上昇すると、加工や縫製業者にも適切な対価が支払われる。
また、長持ちする丈夫な商品が重宝されるため、高品質なモノづくりを継承する国内の繊維産地の存在感が高まる。俣野室長は「作る人が評価される社会にしたい。創作意欲が湧き、良い商品が生まれる」と好循環を期待する。
「リセール市場における収益分配」は、他の産業にも参考になる。人口減少で国内市場は縮小しており、大量販売を追求する成長モデルが崩れつつあるからだ。丈夫で魅力ある商品づくりは製造業の本質であり、得意とする日本企業も多いはずだ。廃棄物も減るため資源も節約できる。転売で収益を得るビジネスを検討する価値がありそうだ。
日刊工業新聞2022年6月3日
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