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Tuesday, May 2, 2023

コラム:ハト派色強める植田日銀、想定超える物価上昇と円安が死角 - ロイター (Reuters Japan)

[東京 2日 ロイター] - 植田和男総裁が率いる日銀は、4月28日に終了した金融政策決定会合とその後の会見で「ハト派」色を前面に打ち出し、その後の株高・円安という流れに大きな影響力を与えた。市場の中には、来年春ごろまでイールドカーブコントロール政策(YCC)の手直しがなさそうだという見方さえ浮上している。

 植田和男総裁が率いる日銀は、4月28日に終了した金融政策決定会合とその後の会見で「ハト派」色を前面に打ち出し、その後の株高・円安という流れに大きな影響力を与えた。同日、都内の日銀本店で撮影(2023年 ロイター/Issei Kato)

ただ、植田総裁の行く手を遮るような黒雲も存在しているのではないか。それは日銀の想定を超える物価上昇と、円安の進展ではないかと指摘したい。今は死角に隠れているこの2つがにわかに目立ち出すと、市場の意表を突くように7月の金融政策決定会合で長期金利の上限引き上げないし撤廃というカードが打ち出される可能性も、ゼロではないと考える。

<市場は株高・円安で反応>

28日の会見でまず、注目されたのは「引き締めが遅れて2%を超えるインフレ率が持続するリスクよりも、拙速な引き締めで2%の物価目標を実現できなくなるリスクの方が大きく、待つことのコストは大きくない」と指摘したところだ。

さらに基調的な物価が2%を安定的・持続的に維持するまで現在の政策を維持し、そのためには物価と賃金がともに上がるメカニズムの確認が必要とし、2024年の春闘で今年のような賃上げが持続するかどうかを確認することの必要性にも言及した。

ただ、来年春まで待たなくても、これからの経済、物価、企業収益の動向をみれば、その前の段階で持続的なメカニズムの発動の有無を確認することは可能との見解も示した。

これらの発言を「素直」に受け止めれば、現在はゼロ%プラスマイナス0.5%に限定されている長期金利の許容幅の拡大ないし撤廃は、早くて今年末までないという結論に至ることも可能だ。実際、今週に入ってドル高・円安が進み、137円台で推移しているのは「日銀はしばらく動かない」とみた参加者が多かったためだろう。

円安は日本株高に直結するとの見方が多い中で、日経平均も2日の取引時間中に昨年8月高値をいったん抜ける動きとなった。「衆院選近し」の思惑が高まる中で政府与党にとっても、この市場反応はプラスと受け止めたに違いない。

<想定超える物価上昇と植田総裁>

しかし、ハト派色を強める植田日銀のロジックの根本は、2023年度後半に足元での物価上昇の勢いが減速し、23年度の消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)が前年比プラス1.8%になるという見通しだ。

2%の物価目標を安定的、持続的に達成できるところまで行っていないので「粘り強く緩和を続けていく」という論理構成になっている。

ところが、全国CPIの先行指標的な性格を持つ東京都区部の4月CPIをみると、足元で物価上昇ペースに加速感が出ていることがわかる。コアCPIは3月のプラス3.2%から3.5%に上昇幅を拡大させ、生鮮食品とエネルギーを除いたコアコアCPIは3月の3.4%から3.8%に上がった。

コアコアCPIは、政府の電気・ガス料金支援策の効果を除いた実態に近いデータであり、日銀は公式には否定しているが、物価の基調に近いと言える。

また、4月は生鮮食品を除く食料が8.9%も上がり、食品価格の値上げに全く一巡感が出てきていない。

さらにサービスが1.7%まで上がってきている。消費者の実感に近い持ち家の帰属家賃を除くサービスは2.6%まで上昇した。サービス価格は賃金上昇の影響をより受けやすく、最近の人手不足によるアルバイトの時給上昇などをみれば、サービス価格は年度後半にかけてさらに上がる公算が大きい。

このように見てくると、今年10月以降にコアCPIが1%台の上昇率に減速しない可能性は相応にあり、その場合は、日銀の論理構成に大きな影響を与える可能性があると指摘したい。

<粘着性強める米インフレと円安>

もう1つのポイントは、円安の進展である。直近のドル高・円安には、1)植田総裁のハト派発言、2)米経済指標にみるインフレの粘着性──の2つが挙げられる。

特に4月の個人消費支出(PCE)価格指数のうち、食品とエネルギーを除いたコアPCE価格指数が前年比プラス4.6%と高止まりし、雇用コスト指数も2023年第1四半期に前期比1.2%上昇。米連邦準備理事会(FRB)が5月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げ打ち止めを明言せず、6月利上げに含みを持たせるのではないかとの見方が急速に広がっていることが材料視されている。

仮にFOMC声明やパウエル議長の会見を経て、6月利上げの可能性が市場でより意識されるようになれば、ドル/円は140円台が視野に入ってくるだろう。

円安は、足元で沈静化してきた輸入原材料価格の上昇を再び加速させ、日本の物価上昇率を押し上げる方向に作用する。

<効果と副作用のバランス>

7月の日銀金融政策決定会合で公表される展望リポートで、物価見通しをこれまでの想定以上に上げることになったら、YCCの枠組みはどうなるのだろうか。

植田総裁は28日の会見で「ところどころに副作用が出ていることは認めざるを得ない」とするとともに、超緩和政策の効果と副作用について「注意深く分析を続け、バランスを間違えないよう、できる限り情報発信していきたい」とも述べていた。

「データ重視」が植田総裁の看板の1つでもあり、コアCPIの見通しを23、24、25年度ともに上げ、2%の安定的、持続的な維持の見通しにめどが立てば、7月会合の段階で、長期金利の許容幅を修正ないし撤廃する可能性もゼロではないと筆者は考える。

<米地銀不安、拡大なら日銀は緩和維持>

ただし、米地銀問題がJPモルガン・チェース銀行によるファースト・リパブリック銀行の買収で沈静化しない場合、米国における銀行株下落が続き、金融機関による貸し渋り問題の拡大による米経済への下押し圧力が増すルートで、日本を含めた世界経済に打撃となる可能性が高まる。

そのケースでは、日銀もYCCの枠組み変更などの対応をやめ、現行の緩和策を維持することで日本経済への衝撃を和らげる対応を強いられるだろう。

米地銀問題が「延焼」するのかどうか、これからの世界と日本の経済にとって大きな分かれ道となりそうだ。

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