SDGsやESGに対する関心度が高まる中、食と農に関する課題について「消費者と共に考える」ことをコンセプトに掲げた店舗が国内にも現れている。「imperfect表参道」もその一つだ。運営は三菱商事が出資するimperfect。商業地区の一等地で、社会課題やサステナビリティを打ち出すショップはまだ珍しい。売り上げの一部はimperfectが進めている生産地におけるサステナビリティ向上プロジェクトの活動資金に適用する。今、新たな消費のムーブメントを仕掛ける理由とは。事業立ち上げのキーパーソンである代表取締役社長の佐伯美紗子氏に尋ねる。
2019年に創業したimperfectは「生活者と生産者との距離を縮める」ことを掲げる会社。現在、取り扱うのは、チョコレートを中心とした菓子類とコーヒーだ。元々、世界中の生産地からの食品原料を調達する業務に従事していた。
東京・表参道にオープンしたカフェ併設の直営店では、味・品質・サステナビリティにこだわった食品を販売することに加え、生産地にある社会課題を消費者と共有し、共に解決を目指す「情報発信拠点」に位置づけている。
活動の一環として店舗オープン以来続けるのが、消費者に投票という参加方法で社会課題解決に向けた行動へと誘発する『Do well by doing good.プロジェクト投票』だ。商品の購入者に供されるチケットを使って投票し、カカオやコーヒーなどの生産地を支援する活動のうち、顧客自身が特に共感するものを選べる仕組みだ。
2023年1月現在は「環境(森の再生)」「教育(女性に向けた養蜂の学習を支援)」「平等(女性のためにコーヒー農園の経営に必要な知識や技術を学んでもらう機会の提供)」という3つのテーマ候補を設定。商品の購入者は応援したいプロジェクトに票を投じる。票数に応じて、imperfectや協力企業が実際にプロジェクトを進める格好だ。
こうした企画を通じて、imperfectでは不均衡な取引関係、持続性のない生産方式、教育、ジェンダーギャップなど、生産地に存在しがちな様々な社会課題の解決に向けて、消費者が無理なく参加できるサイクルの構築を狙う。代表取締役社長の佐伯美紗子氏を直営店に訪ね、同社のビジネスのあらましを聞いた。
社会課題を強調しすぎない空間に
──2019年7月にオープンした「imperfect表参道」は、のべ人数で45万人程度の来店者があったと言います(2023年1月下旬現在の推定。オンライン販売は含まれない)。実績として相当な数です。
佐伯美紗子氏(以下敬称略):たくさんの方に足を運んでいただき、本当にありがたいですね。表参道という土地柄、顧客の中心層は30~40代の女性です。一方で、オープン前に想定していた以上に若い世代、10代後半~20代にも来店いただいています。
佐伯美紗子(さえき・みさこ)氏
imperfect代表取締役。大阪府生まれ。幼少期をアメリカで過ごし、その時の経験から「いつか社会や経済の仕組みを変えたい」という想いを抱くようになる。帰国後は国内の大学に進学し、2008年に新卒で三菱商事に入社。食品の原材料調達部門に従事後、19年よりimperfect立ち上げに携わり、同社マーケティング部長に就任。同年7月にオープンしたフラッグシップストア「imperfect表参道」の企画運営を主導(写真撮影:加藤康、以下特記なき写真は同じ)
──いわゆるZ世代ですね。食や農にまつわる社会課題に関して、敏感な感性を持っているのでしょうか。
佐伯:そうですね。例えば、親子連れでいらっしゃるお客様などは、お子さんが先に学校の授業で調べてimperfectの活動を知ってくださり、親御さんに「お店へ連れて行ってほしい」と頼んでくるという例もあります。
東京の商業施設「表参道ヒルズ」の一角、旧・同潤会アパートの1階にある「imperfect表参道」。この店舗では「ウェルフードマーケット&カフェ」を掲げる
──この直営店は「消費者と生産者を繋ぐ」のがコンセプトですが、そのためにどのような工夫をしていますか?
佐伯:お店に入った瞬間から、「社会課題」「サステナビリティ」といった言葉を感じすぎない環境にしたいと思いました。まずは「おいしさ」や「ワクワクする」という気持ちを感じていただく。その延長上に「チョコレートやコーヒーにこんな課題があるんだ」と知っていただける動線づくりをしています。
入口にあるのはコーヒーやカカオの木です。スタッフとの会話で「カカオの実って、こんな木になるんだ」と知っていただいたりして、少しずつヒントを得てもらえるお店にしたかったんです。
原材料はどういう人たちが育てているのだろう。その人たちはどんな生活環境にあるのか。自然環境は今どのような課題を抱えているのか。こういった話題を、私たちが主張しすぎないようにしながら伝えていく。生産地との距離を近づけて、お客様に想像していただく、知っていただくことから始めています。
店内の絵は、服部あさ美氏が描いた。「消費者と生産者、両方の笑顔を飾りたかった」(佐伯氏)と言う
──「あなたの『おいしい』を、だれかの『うれしい』に。」というフレーズが印象的です。
佐伯:「みんなが笑顔で繋がっていく循環を」というメッセージを伝えたかったので、その思いを表現できるコピーを考えました。
こうしたメッセージに反応いただき、最終消費者である私たちのお客様に「こんな課題があるんですね、初めて知りました」「自分でも考えが変わりました」といった言葉をいただく時が、この仕事をしていて嬉しい瞬間です。
直営店に併設のカフェ。併設のカフェといっても機材は本格的で妥協がない印象。まずは「おいしさ」を伝えるという姿勢が先にあり、通ううちにコーヒー豆の産地の知識がついてくるように設計されている
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