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Sunday, July 4, 2021

新型コロナウイルスの変異株はどこまでひどくなる? 限界はあるのか - BBCニュース

ジェイムズ・ギャラガー BBC健康・科学担当編集委員

Scientist holds a sample tube

画像提供, Getty Images

いま私たちが取り組んでいるのは明らかに、2019年末に中国・武漢で浮上したウイルスよりも、はるかに感染力の高い(もしかすると2倍は高い)ウイルスだ。

昨年9月にイギリス南東部ケント州で最初に特定された、いわゆるアルファ株は、新型コロナウイルスの感染力を一気に拡大させた。そして昨年末にインドで最初に特定された、いわゆるデルタ株が、その感染力をさらに強めた。

まさに、目の前で進化が起きている。

だとすると私たちの未来は暗いのだろうか。変異株は次から次へと果てしなく、より強力に「改良」され、ひたすら制圧しにくくなるのだろうか。それとも、新型コロナウイルスの強毒化には限界があるのだろうか。

このウイルスがたどってきたこれまでの旅路を振り返ってみよう。まったく別の種に感染するウイルスから(遺伝子的に最も近いものはコウモリから見つかっている)、私たち人間に感染するものへと種を飛び越えた。新しい仕事を始めたばかりのあなたにたとえてみよう。有能ではあるが、その仕事に必要な能力をまだ完全に習得していない。最初のウイルスには世界に壊滅的なパンデミックをもたらすだけの毒性はあったが、今では仕事をしながら学習しているのだ。

ウイルスが動物から人へとジャンプする時点で、「完璧な能力をすでに備えているのはとても珍しい」と、インペリアル・コレッジ・ロンドンのウェンディー・バークリー教授(疫学)は言う。

ウイルスは「いったん人間にうつってから、そこに落ち着いて、大いに楽しむ」のだという。

インフルエンザやエボラ出血熱など、ウイルスが動物から人間へと宿主を変えて、それから一気に毒性を強める事例はほかにもあると教授は話す。

では、この流れはどこまで続くのか。

ウイルスが純粋に生物学的に広がる様子を比べる方法としては、基本再生産数(R0、Rゼロ)を見るのが最もすっきりしている。誰も免疫をもたず、誰も感染予防策をとらなかった場合、1人の感染者が平均何人にウイルスをうつすのかを示す数が、R0だ。

中国・武漢でパンデミックが始まった当時、R0は約2.5だった。インペリアル・コレッジ・ロンドンで疫学モデルを作っているチームによると、デルタ変異株のR0は8まで上がっているかもしれない。

R Comparison
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「このウイルスには驚かされてばかりだ。恐れていた事態を超えている」と、英オックスフォード大学でウイルスの進化を研究するアリス・カツラキス博士は言う。

「18カ月の間に2回も、2つの系統(アルファとデルタ)がそれぞれ感染力を50%上げてくるなど、とてつもない量の変化だ」

感染力がどれだけ高くなるのか数字を挙げようとするのは「ばかげたこと」だと博士は言うものの、今後数年のうちにさらに感染力が飛躍的に高まることは十分にあり得るという。R0が現在の新型コロナウイルスよりはるかに高いウイルスはほかにあり、それが記録的に高いはしかウイルスは爆発的な集団感染を引き起こすこともある。

「(新型コロナウイルスのR0が)さらに上昇する余地はまだある」と、バークリー教授は言う。「はしかのR0は14だと言う人もいれば30だと言う人もいる。新型コロナウイルスが今後どうなるのかは分からない」

では、変異株はどうやって感染力を高めているのか。

ウイルスが高い感染力を獲得するために使える「技」はいろいろある。たとえば――

  • 人体の細胞に入り口を開ける方法を改良する
  • 空中でなるべく長く感染力を保つ
  • 患者がなるべくたくさんウイルスを呼吸やせきで放出するよう、体内のウイルス量を上げる
  • 別の人へ伝播(でんぱ)する際に変化する

アルファ変異株の感染力が従来株より高くなったのは、私たちの細胞内にある警報装置(「インターフェロン応答」と呼ばれる)をかいくぐるのが上手になったからだ。けれどもだからといって、ギリシャ文字のアルファベットを使いつくしてオメガにたどり着くころには、もう歯止めの一切効かないけだものが誕生している――というわけではない。

「究極的には限界はあるし、最悪の変異をすべて兼ね備えた究極の超絶ウイルスなど存在しない」と、カツラキス博士は言う。

variants

加えて、進化には獲得と喪失というトレードオフの概念がある。何かひとつのことが上手になると、別のことが下手になるというわけだ。史上最速のワクチン開発・接種事業は、従来と異なるハードルをウイルスの前に並べるだろうし、それによってウイルスは従来とは別の進化の方法へ押し出されるはずだ。

「ウイルスがワクチンを上手に回避できるように変化すると、結果的にその変化によって感染力が損なわれる可能性もかなりある」とカツラキス博士は言う。

たとえば、ベータ株は「E484K」と呼ばれる変異をもつ。E484Kは免疫系を回避する手助けをするが、それでもベータ株はさほど大々的に広がっていない。これは、自分の言う可能性の一例だろうと博士は考えている。しかし、デルタ株には、拡散を手伝う変異と、免疫を部分的に回避する変異が、両方備わっている。

新型コロナウイルス対策で結局、何が最適な戦略になるのかは、まだ予測するのが難しい。別々のウイルスはそれぞれ、感染を続けるために別の手法を使う。はしかの感染拡大は爆発的だが、一度かかると一生免疫が持続するため、常に新しい宿主を必要としている。これに対してインフルエンザのR0ははるかに低く、1をわずかに上回る程度だが、常に免疫をかわすために変異し続ける。

「私たちは今、本当に興味深い中間期にある。いささか予測不可能な段階でもある。この状態が1年後にどうなっているのか予測するのは難しい」とバークリー教授は言う。

ウイルスが感染力を増すには弱毒化する必要があると言う人はよくいるが、この話は科学者には嘲笑されてしまう。ウイルスにそう仕向ける進化上の圧力はほとんどないからだ。ウイルスは、感染した人が死んでしまうよりずっと前に、すでに次の人にとりついている。そして、ウイルスを一番拡散しがちな人たち(つまり若者)は、あまり症状が重くならない。

優れたワクチン接種事業が進む裕福な先進国では、免疫の拡大によって、次の変異株の影響を抑制できるのではないかと期待されている。しかし、先進国以外の世界各地では、感染抑制が日に日に難しくなっている。そうした地域にとって、感染力をどんどん増していく変異株は悪夢にほかならない。

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