[ワシントン 1日 ロイター] - 7月25─26日に開かれた直近の米連邦公開市場委員会(FOMC)以降に蓄積されたデータを見ると、米経済が破綻なくクールダウンしつつあるとの印象が強まってきた。そのため、米連邦準備理事会(FRB)はインフレとの戦いを早々に終結するのを嫌うかもしれないものの、追加利上げの妥当性は薄れていく公算が大きい。
特に雇用関連指標は、急激だった雇用の増加ペースが、新型コロナウイルスのパンデミック前の力強いが持続可能と言えるところまで鈍化していることがうかがえる。
8月の非農業部門雇用は前月比18万7000人増と、過去の基準に照らせばなお上振れている。しかし過去3カ月平均は15万人増で、2019年10─12月期以来の低さに落ち着いた。
労働者の離職や企業の新規採用も、パンデミック前の水準近くかそれ以下になってきた。またFRBが注視している失業者1人当たりの求人件数は7月が1.51件と、21年9月以降で最低にとどまった。
ボストン地区連銀総裁を務めたエリック・ローゼングレン氏はX(旧ツイッター)への投稿で、これらの動きが米労働市場の明確な減速を示していると指摘。「この流れが続くなら、政策金利は現行水準がピークになりそうだ」と述べた。
実際19─20日の次回FOMCでは政策金利据え置きが予想されている。このFOMC後に公表される最新の政策金利見通しで、FRBが引き続き年内の追加利上げを想定していることが分かる可能性もあるが、8月雇用統計を見た投資家の間では、そうならないとの見方が強まった。
ジュリー・スー労働長官代行は、雇用の伸び鈍化は米経済がパンデミック時の失業に対する反動による急激な回復から、「持続的で安定した成長」に移行していることを物語っており、まさに待望のソフトランディング(軟着陸)が現実化しているとの考えを示した。
つまりそれは、物価上昇率を目標の2%に収めながらリセッション(景気後退)ないし高失業率を招かないというFRBが期待するシナリオだ。
<持続的減速のシグナル>
8月の平均時給は前月比0.2%増と、昨年2月以来の低い伸びだった。年率換算は約2.5%で、FRBが2%の物価上昇率と整合的とみなす約3%よりも低い。
労働参加率は62.8%でパンデミック前を0.5ポイント下回り、高齢化の進展を踏まえた基調的なトレンドにほぼ等しいと一部エコノミストが考える水準だ。
FRBはこれまで、強すぎる雇用はインフレを高止まりさせかねないと懸念し、労働市場の温度が下がることを願ってきた。
そして7月FOMC後のデータからはその肝心の物価上昇率が鈍化し、物価上昇範囲も狭くなってきたことが読み取れる以上、少なくとも今のところFRBの取り組みは進展を見せている。
8月の主要な物価上昇率は前年比で若干高まったとはいえ、前月比は減速。クリーブランド地区連銀が算出する個人消費支出(PCE)物価指数中央値などのインフレの広がりの尺度となる指標も最近数カ月で下振れしてきた。これは毎月出てくる雑多な特殊要因を排して基調的な動きを見定めようとしている政策担当者にとっては重要な手掛かりになるだろう。
食品とエネルギーを除く7月のコアPCE物価指数の前年比上昇率は4.2%と依然高い伸びだった。
それでもパンテオン・マクロエコノミクスのチーフエコノミスト、イアン・シェパードソン氏によると、金利水準が十分に高いと確信するには数カ月にわたって経済が着実に減速してきたという証拠が必要だと言い続けてきたFRBにとって、ついに求めていたシグナルを手に入れたのかもしれないという。
シェパードソン氏は、8月の20万人近い雇用の伸び自体はFRBのタカ派を安心させるほど弱くないが、経済成長とインフレのデータが想定通り落ち着いて推移する限り、彼らに追加利上げを積極的に主張させるだけの強さだとも言えない、と解説した。
(Howard Schneider記者)
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