電通の「事業グロース実践ウェビナー」では、日々進化するビジネスの最新の知見を発信しています。本連載では、事業グロース実践ウェビナー2022 by 電通People Driven Marketingから、注目のセッションをピックアップ!登壇者に改めてお話を伺いました。
今回のテーマは、電通が開発した人基点のコンサルティング、「People Driven Growth Consulting」(以下、PGC)。
電通の持つデータ分析力、クリエイティビティ、コミュニケーション、イノベーション創出といった強みをプラスすることで実現する、事業戦略とブランド戦略をはじめとした顧客体験設計を融合した、新しい時代のコンサルティングのあり方とは?PGCを開発したソリューションプランナーの林将宏氏と、データを活用した事業戦略の専門家である田嶋優樹氏に聞きました。
<目次>
▼不確実性の時代、「顧客をはじめ事業に関わる全ての人を動かす」事業戦略が不可欠に
▼とある「レッドオーシャン」な市場を切り開いたブランド戦略とは?
▼全ての領域を「人基点」でグロースさせるコンサルティング
不確実性の時代、「顧客をはじめ事業に関わる全ての人を動かす」事業戦略が不可欠に
──PGCについて、基本的なことから伺います。ずばり、このコンサルティングはどういった定義になるのでしょうか?
林:一言でいうなら、事業を動かすために人の気持ちを動かし、行動を促す「人基点のコンサルティング」です。私自身もコンサルティングファーム出身なのですが、従来の戦略コンサルティングサービスは「事業基点」の分析と戦略立案を突き詰めて、事業基点でうまくいくか、事業がグロースするかを検討するものです。すなわち、あくまでも「企業をどうしていくか」「事業をどうしていくか」という考え方だったんですね。ただ、事業や企業も人の集合体であり、お客様も人です。そのため、事業を成長させるためには根源的には、人の心や気持ちを動かすことが必要になってきます。それゆえ、そうした事業視点だけでしか見ていない、従来型のコンサルティングではカバーしきれない課題が多くなってきました。私としても、顧客の事業成長のためにこれまで培ってきた人の気持ちを動かし、行動を促すアプローチを活用できないのかを模索していました。
田嶋:そこで、電通が提唱している「People Driven Marketing」、人基点のマーケティングの考え方と知見を、従来のコンサルティングと組み合わせたフレームワークを開発しました。それがPGCです。
People Driven Marketingとは?
https://www.dentsudigital.co.jp/services/communication/ax/pdm
林:事業を実際にグロースさせるためには、最終的には必ず人の気持ちを動かし、行動を促す必要があります。「人」基点のデータドリブンなプランニング+「人」を動かす体験の創出、この2つが、People Drivenの考え方です。マーケティングやコミュニケーション領域における電通の強みを凝縮したものだといってもいいかもしれません。細かくいえば、
- データ基点での顧客価値創造力
- 洞察力×クリエイティビティ
- 現場と共に社会を動かす実行力
- 顧客体験(CX)やコミュニケーション設計力
- 事業共創によるイノベーション創出力
これらは全て電通の持つ強みです。そこに「事業課題導出」や「事業戦略立案」といったコンサルティング機能をかけ合わせることで、今の時代のクライアントの悩みを解決していくことができます。
──現代ならではのクライアント課題に対し、従来型のコンサルティング機能だけでなく、電通のマーケティングやコミュニケーションの知見で支援を行うのがPGCなのですね。
林:はい。今、クライアントからのご相談は以下のようなものが増えています。
林:こうした問題は、生活者、従業員をはじめとしたあらゆるステークホルダーと向き合わなければ解決できません。つまり「人と向き合うことで、人を動かす」という考え方が、あらゆる企業とビジネスにとって不可欠になっていると思います。
──PGCというフレームワークの全体像について教えてください。
林:大きくは以下の4つのステップで支援を行います。
- 事業環境分析……企業基点+人基点での事業環境分析を行う
- 本質的課題の導出……事業課題を網羅した上で、本質的課題を導出。戦略シナリオの検討と評価を行う
- 顧客への価値拡大……戦略シナリオに基づき、「事業戦略策定」「顧客体験設計」「データ戦略策定」といった価値を提供する。つまり、絵に描いた戦略だけではなく、事業に関わる全ての人を実際に動かす戦略を策定する
- 人を動かす事業推進……事業のプロデュース。「人が動く」組織設計・業務設計を行い、持続的実行&PDCAを支援する
この1~4の全てに伴走することが多いですが、もちろんクライアントの課題や要望に応じて、部分的な支援を行うことも可能です。
──戦略策定で終わらず、顧客体験設計といったコミュニケーション面や、実際のオペレーションといった川下の部分まで伴走するのが、従来型のコンサルティングとの大きな違いになっているのですね。かつ、4つのステップ全てにおいて「People Driven」の考え方を根底に置いているのがPGCであると。
林:まさに電通ならではの支援だと思います。中でも「人の心を動かす」というPeople Drivenの観点で分析や戦略策定も行っているのが、PGCの一番の特徴ですね。
とある「レッドオーシャン」な市場を切り開いたブランド戦略とは?
──ここからは、実際にクライアントにどのような価値を提供しているのか、PGCの事例について伺えればと思います。
田嶋:ある外資系の飲料メーカーに対する支援事例をご紹介します。従来のコンサルティングが対象としていた「事業戦略」に加え、電通の強みを生かした「ブランド戦略」と両輪で回すことによって、人の心を動かす市場拡大を狙いました。
林:事業戦略とブランド戦略は切り離せませんが、大きく分けると、「事業戦略」は先ほどの1と2、より川下に近い「ブランド戦略」は3と4の部分で重要になってきます。
田嶋:この事例では、クライアントである外資系飲料メーカーが、すでに有力な日本ブランドたちが市場を持っているレッドオーシャンに後発として参入するにあたり、事業戦略とブランド戦略を支援しました。
今回、クライアントからは「新しい飲用体験」の提案を求められていました。まず市場分析ですが、日本人の価値観やマーケット構造、競争環境を理解する必要があります。そのうえで、どうしたら長期的な地盤を築くことができるのかを考えていきました。
いわゆる事業コンサルのアプローチでも、「競合分析」「市場分析」といった、いわば“企業や商品主語”の分析は行いますが、われわれは人基点で、「人と商品の関係性がどういうふうに変化していくのか?」に着目してストーリーを作っていったのです。
──4つのステップでいうと「事業環境分析」「本質的課題の導出」のフェーズですね。
田嶋:はい。具体的には、その商品が目指すポジションとして、“プレミアム性もありながら、かつマス向けにも販売している”という、「プレミアムマス」という立ち位置をまず規定しました。
ただしもちろん、すぐにその立ち位置に行くことは不可能です。そこで、まずストーリーを丁寧に届けることで「プレミアム性のある商品イメージ」を構築していくことにしました。そこから徐々に販売チャネルを広げて、「マス化」を進めるというアプローチを戦略として策定したのです。
──レッドオーシャンの中に「プレミアムマス」という新たな立ち位置を作ることで、独自の市場を獲得することを狙ったのですね。そのために、まず小さな市場でも「プレミアム性のある商品イメージ」を獲得することから始めたと。
田嶋:基本戦略として「人と商品の関係性の変化」というものを打ち出し、常にそこに着目しながら、「ストーリー伝達」「家庭内に展開」「本格拡販」の3段階で市場獲得を進めました。この3段階において、それぞれでどういった顧客体験を作るべきなのか、どういったチャネルで情報発信していくべきなのかといった、具体的な取り組みの方針にまで落とし込んでいきました。
──「人基点」という観点では、ターゲットになり得るペルソナやカスタマージャーニーも作成したのですね。
田嶋:はい。実際の意識データや行動データに基づき、生活者のリアルな実態を理解することを行いました。電通には、豊富なデータ基盤に加え、マーケティングの領域で培ってきたノウハウがあります。単純なデモグラフィック情報だけで戦略を考えるのではなく、生活者の日常行動や価値観のレベルまでリアルに捉えた分析が可能です。
今回は、商品の潜在ニーズとしてのターゲットとなるペルソナとカスタマージャーニーを作り、「家族や大切な人との本当のくつろぎの時間を楽しむ」という、いわばターゲットの“キーインサイト”を導出しました。また、さまざまなデータに基づき、この商品・ブランドが最終的にどの程度の市場を獲得できるのかを検討した上で、「プレミアムマス」という戦略にたどり着いたのです。
また、中長期的な基盤づくりのために、外部ステークホルダーの巻き込み方、言い方を変えると商品のバリューチェーンまで検討しました。先ほどの3段階の中で、「調達・製造」「流通」「小売・提供」のバリューチェーンを何パターンか作り、市場拡大と定着を支援しました。
林:まとめると、プレミアムマスというブランド戦略により、新たな市場を獲得し、電通の得意とする顧客理解によって「人基点での市場拡大」を行った事例といえると思います。この事例では以下のような流れでの価値提供を行いました。
- 「人基点」で、クライアントの事業機会を発見
- 「人基点」で、新たな市場を生み出す事業を構想
- バリューチェーンに関わる全ステークホルダーを「動かす」事業設計
- 事業戦略と顧客体験創造
全ての領域を「人基点」でグロースさせるコンサルティング
──PGCの基本的な考え方が明確になったように思います。冒頭で伺った4つのステップ、それぞれにおいて電通ならではの強みが生かされているんですね。
林:はい。最後に、PGCの7つの特徴をまとめてご紹介します。ここでは「4つのステップ」にひもづく形でお話しします。
■事業環境分析
①人基点での市場理解や機会発見
②国や社会の動きから人の行動変化を予測
事業環境分析は従来のコンサル会社でも実施していますが、PGCでは電通の保有する意識データ、行動データ、プラットフォーマーデータなど、実際の生活者のファクトに基づく市場分析が可能です。People Driven DMPといったデータマネジメント基盤を活用し、生活者一人ひとりの顔が浮かぶような、生活者理解に基づいた事業機会の発見を行います。
先ほどの「プレミアムマス」の事例もそうですが、データに基づき、売り上げの元となる「市場の大きさ」を定量的に算出します。そして生活者をセグメント分けした上で、クライアントの商品やブランドに対する潜在ニーズを推測し、十分な市場規模を持っているかを検討していきます。
また、国や社会の動向から、人の行動変化を予測して提供する「パブリックコンサルティング」というものがあります。パブリックコンサルティングでは、政府の政策情報とその論調、社会動向に対する生活者インサイト、それを受けての市場動向といった要素を、経営や事業戦略、マーケティングコミュニケーションに反映させていきます。
例えば「キャッシュレス」だったり、「カーボンニュートラル」だったり、人々の生活に大きな影響を与える変数があります。それによる規制動向や産業構造の変化が、クライアントのビジネスにどういった影響をもたらすのか。その業界に、中長期的にどういった課題が発生し、どのようなことをケアする必要があるのかということを予測し、戦略策定に反映します。
■本質的課題の導出
③事業基点と人基点双方で事業シナリオを評価
一般的なコンサルティングにおいては、事業環境分析を元に戦略を策定し、取るべきいくつかの戦略シナリオのオプションを評価することで、企業の意思決定の支援をします。われわれはこの際も、事業基点だけでなく、「人基点」でのシナリオ評価を行います。
先ほどの飲料メーカーのケースでいえば、従来のコンサルティングでは、「売り上げ」「コスト」「独自性」といった企業基点の評価を行い、それを基に企業は意思決定を行います。もちろんこれらは重要ですが、PGCではそれに加えて「習慣化」「文化化」といった人基点の視点を重要視しています。生活者がその商品やサービスを中長期的に使ってくれるのかという観点で戦略を評価したことで、「プレミアムマス」のプランが実現しました。
■顧客への価値拡大
④人基点での新市場創出
⑤人の心を動かす、パーパス/ブランド基点での事業再生
PGCで特に大事にしているのが、生活者インサイトです。ターゲットとなる生活者のインサイトから、サービスや商品のコンセプトを規定し、このコンセプトに基づいた「〇〇市場」という新たな市場を定義していきます。先ほどの事例でいえば「プレミアムマス」というコンセプトに基づき、新たな市場を創出・拡大することができました。
コンサルティングでは新規事業だけでなく、既存事業の再生も行います。既存のサービスや商品には、品質や価格だけでは競合との差別化が難しいものがあります。
事業観点だけでは競争力が作りにくい商品やサービスに、ブランドやパーパスという視点で光を当てることで、顧客行動や事業の収益構造を変化させることができます。強いブランドや強いパーパスを持つことで、近隣の産業との関係性も変わっていきます。結果として、従来事業の存在価値が大きく変わり、成長軌道に乗せることができます。このブランドやパーパスという観点も、電通が非常に得意とする領域です。
■人を動かす事業推進
⑥人の意識/行動データに基づくPDCA
⑦人を動かす組織文化変革
実際に事業が動き始めてからは、生活者の意識データや行動データを活用した「人基点」でのオペレーションやPDCAを支援します。われわれの持つ豊富なデータ基盤を駆使して、数値での事業目標を達成するためのPDCAを回していくことができます。どんなコミュニケーションを行えば、人々の行動が良い方向に変容するのか、この領域についても電通には長年の知見やシステムの蓄積があります。
最後に、PGCは生活者だけでなく、企業の従業員などのステークホルダーを対象とした組織文化改革も提供しています。私たちは特に、「従業員の体験を変える」ことを大変重視しています。
まず事業のありたき姿を「なりわい」というキーワードで定義し、このなりわいに対して従業員がどう変わるのが望ましいか、その体験デザインを設計していきます。なりわいに対する見える化、自分ゴト化、行動化を行い、さらには企業文化化まで発展させることを目指します。戦略的ビジョンとして掲げたなりわいが、顧客サイドだけでなく企業のインターナルにも浸透していくように設計します。
──PGCの特徴がよくわかりました。コンサルティングを提供できる領域としては、「事業」や「マーケティング」が中心にあるのでしょうか。
田嶋:もちろんその領域には強みがありますが、ほかにもパーパスやブランドといった「経営」の領域、サステナビリティやソーシャルイシューといった「CSV」の領域、電通独自の強みである自治体や公共団体などのパブリックおよびスポーツマーケティングの「専門領域」、さらにECやD2Cの事業グロースやロイヤルティプログラムを含む「デジタル」の領域も、われわれの得意としているところです。
林:すでに多くの実績を積んでいますが、さらに広い領域での支援を行っていきたいと考えています。また、電通はメディアや自治体、大企業からスタートアップまでさまざまな企業とのネットワークを広く持っているため、単一企業では解けないような複雑な課題を、複数のパートナーとの事業共創によって解決するプロジェクトも多数手掛けています。短期的なプロジェクトから、中長期的な事業グロースまで、ぜひご相談いただければと思います。
──本日はありがとうございました!
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