経団連と経済広報センター(十倉雅和会長)は5月10日、東京・大手町の経団連会館で、ピーターソン国際経済研究所(PIIE)の協力により、シンポジウム「変動する世界における国際経済の課題と強靭で持続可能なサプライチェーンの再構築」を開催した。ロシアによるウクライナ侵略、米中対立など、世界情勢は先行き不透明な状況が続き、資源市場の構造変化や食料価格の高騰が企業活動や市民生活に多大な影響を及ぼしている。このようななかで、今後の企業活動に役立つさまざまな示唆を得ることを目的とした。概要は次のとおり。
■ 基調講演「米国と世界の主要国のマクロ経済見通し」
(アダム・ポーゼンPIIE所長)
インフレと金利上昇に注意が必要なものの、総じて世界経済の見通しについて悲観していない。
米国経済の減速の兆候はごくわずかであるが、インフレ率は横ばいで高止まりが続いており、失業率は2024年末には5%程度まで上昇するだろう。債務上限問題は、バイデン政権と野党共和党の間で合意形成ができていないというガバナンス上の失敗である。デフォルト(債務不履行)回避に向け、非国防関連の裁量的経費を削減することで合意に至ると予測している。デフォルトになる場合、米国債の格下げにより金利や為替レートに大きな影響が及ぶ。
中国経済は減速する可能性が高い。民間企業に比べ国有企業への投資割合は15年に底打ちしてから増加し続けており、人口の問題と相まって、長期的には生産性と経済成長にマイナスに作用する。さらに、ゼロコロナ政策が、今後長期にわたって投資と消費に悪影響を与えるだろう。保護主義や米国・欧州などの大経済圏の成長鈍化により外需が弱まり続けていることも要因である。欧州はエネルギートランジションに適応するなど、良好な経済成長を維持すると評価している。
日本は、米中間の橋渡しや第三国との連携において重要な役割を果たすことができる。日本企業はオープンでバランスのとれたアプローチをとることが必要である。
◇◇◇
ポーゼン氏の講演に対して、経済産業研究所の竹森俊平上席研究員は、米国が中国による台湾への軍事行動の抑制に必要な経済措置を進めるとともに、同盟国との間で透明性のある自由貿易体制を堅持することが重要とコメントした。
■ パネルディスカッション「強靭で持続可能なサプライチェーンの再構築」
基調講演に続き、モデレーターとして竹森氏、パネリストとして、PIIEシニア・フェローのメアリー・ラブリー氏、カレン・ヘンドリックス氏、東京財団政策研究所の柯隆主席研究員によるパネルディスカッションを行った。
ラブリー氏は、サプライチェーンの歴史的な変遷、市場主導と政策主導の違いについて説明。市場の影響によってグローバルな製造業が変化してきたことを指摘しつつ、特にアジアの低中所得国が労働集約型と資源集約型の製造品、そしてハイテク商品の輸出シェアを大幅に伸ばすなど、サプライチェーンにおいて重要な役割を果たしていることを強調した。各国の政策もサプライチェーンに影響を与えており、米国の輸出管理措置や国家安全保障の追求がその例であると述べた。米国が中国と協力するための肯定的なビジョンを示していないことが問題であり、日本など他の国が中国と平和的に協力していくために影響力を行使する必要があるとした。
ヘンドリックス氏は、電気自動車(EV)の製造に必要な鉱物資源の需要に対応するためには、新規の採掘や加工施設への投資が不可欠と指摘。一方、米国とその自由貿易協定締結国では生産能力が低く、鉱物加工を中国に依存しているのが現状である。こうした状況を踏まえ、自国や友好国間で生産を拡大するだけではなく、サプライチェーンにおいて中国との協調を図り、東南アジアやサハラ以南のアフリカなど第三国・地域の生産能力の向上を支援する必要があると提言した。また、鉱物資源安全保障パートナーシップ、重要鉱物バイヤーズクラブなど、共通の利益や価値を再確認する現行の枠組みだけでは不十分であり、参加国間で投資や規制への対応における調整など、問題を明確にすることが重要であると述べた。
柯氏は、中国経済について分析。人口減少やゼロコロナ政策などを要因として、中国経済は過去10年間で急激に減速したと述べた。また、中国政府が経済改革を先送りし、グローバル市場や法の支配を尊重しないことがサプライチェーンに悪影響を及ぼしていると説明した。中国がグローバルサプライチェーンから切り離されることは望ましくなく、中国政府は自由で公正なグローバル市場をつくるために努力する必要があると主張した。
その後、国際経済の課題とサプライチェーンの再構築について、多角的な視点から議論が展開された。
【国際経済本部】
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