日本銀行政策委員会審議委員 安達 誠司
2022年10月19日
1.はじめに
日本銀行の安達でございます。この度は、富山県の行政、財界、金融界を代表される皆様とお話をさせて頂く貴重な機会を賜り、誠にありがとうございます。また、皆様には、日頃から私どもの富山事務所および金沢支店の様々な業務運営にご協力頂いております。この場をお借りして改めて厚く御礼申し上げます。
本日は、わが国の経済・物価情勢と日本銀行の金融政策運営につきまして、私の考えを交えつつお話しします。その後、皆様から、富山県経済の動向や日本銀行の業務・金融政策に対する率直なご意見をお聞かせ頂ければと存じます。どうぞよろしくお願い申し上げます。
2.経済・物価情勢
(1)経済情勢
感染症の動向
はじめに、新型コロナウイルス感染症の動向について触れたいと思います。わが国では、夏場に感染の第7波が猛威を振るい、新規感染者数は過去最高を更新しました(図表1)。しかし、感染抑制と経済活動の両立が進められるもと、第7波では行動制限措置が講じられなかったこともあり、人流の抑制は過去の感染拡大の波と比較して小幅に止まりました。
海外に目を転じてみても、感染症の流行は収束したとは言えないまでも抑制されています。今後、新型コロナウイルス感染症については、よほど毒性の強い変異種が出てこない限り、仮に感染拡大の波が再来したとしても、それが経済に与える影響は小さくなっていくと思われます。
ただし、中国は、依然としてゼロコロナ政策を徹底するスタンスを取っています。今後も、中国におけるロックダウン(都市封鎖)は、国際的なサプライチェーンを通じて世界経済に影響を与えるリスクがあると考えられます。この点は、世界経済のリスク要因である点には留意が必要です。
内外経済の現状
次に、内外経済の現状についてお話しします。
まずは世界経済についてです。世界経済は、感染症の流行による下押し圧力を受けつつも、コロナ禍の初期に懸念されていたような底割れに至ることはなく、回復し、底堅く推移してきたと言えると思います(図表2)。私としては、世界経済が底堅く推移してきた背景について、以下の2つの世界共通の要因があると考えています。
第1に、感染症の影響が和らぐもとで、これまで抑制されてきた需要、いわゆるペントアップ需要の存在もあり、個人消費が堅調に推移していることです。なお、世界的に生じている物価高は消費の下押し要因になり得ますが、これまでのところは物価高が実質可処分所得の減少を通じて消費を大きく減少させるといった動きはみられていません。このように個人消費が耐性を維持している背景としては、コロナ禍で各国政府が所得補償を手厚く行ったほか、政府による行動制限措置等の結果として対面型サービスの消費機会が大きく減少した結果として、貯蓄が積み上がってきたことも影響していると思われます。加えて、例えば米国では、株式や住宅といった資産価格が上昇した結果、家計の保有資産の含み益が増加し、それが個人消費を支えたことも指摘できます。
第2に、設備投資需要の強さも指摘できます。背景として、デジタル・トランスフォーメーション(DX)や気候変動問題への対応のための投資などが挙げられます。
そこで、日本経済についても、今申し上げた2つの世界共通の要因からみてみたいと思います。
1点目のペントアップ需要については、わが国では、年初にみられた感染の第6波が収束した後に顕在化し、成長率を押し上げたとみています。その後の感染の第7波でも、ペントアップ需要はやや鈍化したものの、景気を下支えしたとみられます(図表3)。
2点目の設備投資需要は、各種サーベイ調査における設備投資計画をみると、わが国の経済の前向きな循環メカニズムにおける牽引役としての期待が高い状況が続いています。設備投資は、コロナ禍における供給制約等の影響で、企業の当初計画対比では下振れする状況が続いてきましたが、コロナ禍の影響が和らぐにつれて、先送りされてきた計画が実施に移されていくとみられます(図表4)。
ここで、わが国の輸出についても少し言及したいと思います。わが国の輸出は、世界全体の景況感がコロナ禍からの回復過程で底堅く推移してきた中で(図表5)、基本的には堅調を維持してきました(図表6)。ただし、原油等の原材料価格の高騰から輸入が大きく増加しており、貿易収支は赤字傾向で推移しています。日本経済全体としてみた際の取引条件の悪化、つまり交易条件の悪化によって、日本から海外への所得流出が起きているというのが現状です。
日本経済の全体については、資源価格上昇の影響などを受けつつも、感染抑制と経済活動の両立が進むもとで、持ち直しているとみています。
(2)わが国の物価情勢
現状
次にわが国の物価情勢についてお話しします。8月の全国消費者物価指数は、生鮮食品を除く総合が前年比+2.8%、生鮮食品及びエネルギーを除く総合が同+1.6%でした(図表7)。食品を中心に多くの品目について今月の値上げが報じられていることも踏まえると、今後発表される10月の消費者物価指数の前年比は、生鮮食品及びエネルギーを除く総合でも、日本銀行が「物価安定の目標」で掲げる2%まで上昇する可能性が高まっています。わが国の物価上昇率は、他国対比ではまだ低い状況にありますが、私自身がこれまで考えていたよりも早いペースで物価が上昇しています。
このように物価上昇率が高まっている背景の一つとして、企業の価格設定行動が変化しつつある可能性が挙げられると思います(図表8)。過去においては値上げに踏み切れなかった企業が、先に値上げに踏み切った企業において収益が大きくは悪化しなかったことを確認し、値上げに踏み切るという動きが次第に広がっている可能性があります。企業がこうした価格設定行動を採用している要因として、先ほど申し上げたペントアップ需要やコロナ禍の行動制限下で積み上がった貯蓄の存在、および、今年度の賃上げも影響していると思われます。
先行き
次に、今申し上げたようなペースの物価上昇が先行きも持続するのかという点についてお話しします。私は、今後、相応の物価上昇が続くとみていますが、それでも、日本銀行が掲げる「物価安定の目標」を安定的に実現できる道筋が見えてきたのかと問われれば、依然としてその実現には確信が持てません。以下、その理由について、物価変動の背後にあるメカニズムにも触れつつ、お話ししたいと思います。
消費者物価指数は、様々な品目の価格で構成されており、それぞれの品目の価格の変動は一様ではありません。消費者物価を分析する方法は種々ありますが、品目の価格の改定頻度に着目して分析することも有益です。その際、価格の改定頻度が比較的高い品目で構成した「伸縮的な(flexible)消費者物価」と、価格の改定頻度が比較的低い品目で構成した「粘着的な(sticky)消費者物価」に分けて物価動向をみることができます。大まかな傾向としては、「伸縮的な消費者物価」には財価格が多く含まれ、「粘着的な消費者物価」にはサービス価格が多く含まれると考えられます。
次に、今申し上げた2種類の消費者物価の変動要因は、マクロ経済分析でよく用いられるフィリップス曲線の考えに基づくと、「伸縮的な消費者物価」は景気循環あるいは需給ギャップに、「粘着的な消費者物価」は中長期のインフレ予想の影響を受け易いと考えられます。ただし、「伸縮的な消費者物価」は、商品市況等を映じた原材料価格の影響も受け易い傾向があります。
現在のわが国の消費者物価の上昇は、エネルギー関連のほか、食料品、耐久消費財など国際的な原材料価格の上昇の影響を受け易い財の価格が大きく寄与しています。一方、「粘着的な消費者物価」の中心を構成するサービス価格は、まだ小幅の上昇にとどまっています(図表9)。「粘着的な消費者物価」に影響を与え易いと考えられるインフレ予想について、例えば日銀短観における企業の物価見通しをみますと、このところ「1年後」という短期を中心に上昇しているとはいえ、「3年後」、「5年後」といった中長期の予想インフレ率は、上昇が相対的に緩やかです(図表10)。
次に、日本銀行が「物価安定の目標」を安定的に実現するためにはどういった点が重要かについて考えてみたいと思います。私は、「粘着的な消費者物価」の動きが重要であると考えています。誤解がないように申し上げると、「伸縮的な消費者物価」の動きも重要です。しかし、それは、景気循環による上下の変動が不可避です。また、エネルギー価格をはじめ、海外からのコストプッシュ要因の影響も強く受けます。このため、「物価安定の目標」を安定的に実現するためには、「粘着的な消費者物価」による下支えが必要になるのです。
「粘着的な消費者物価」が、より高い水準で安定的に推移するためには、中長期のインフレ予想が上昇した状態で安定的に推移することが重要です。そのためには、賃金の持続的な上昇が重要になります。賃上げは、これまで価格上昇が小幅だったサービス価格、ひいては「粘着的な消費者物価」の上昇にも寄与すると考えられます。
さらに、そうした賃金の上昇を後押しするうえでは、企業の成長期待の高まりも重要と考えられます。ただし、これまでのところ、残念ながら、多くの企業において、必ずしも成長期待は高まっていないようです。例えば、内閣府が発表している「企業行動に関するアンケート調査」によると、今後5年間の実質経済成長率見通しは、直近の令和3年度調査では+1.0%と低めにとどまっています(図表11)。ちなみに、これは日本が長期のデフレに陥る前は、2から3%以上ありました。
以上のわが国の現状を踏まえ、私は、日本銀行の2%の「物価安定の目標」の達成は、現時点では依然として道半ばと考えています。
3.金融政策運営
前提となるリスク認識
次に、日本銀行の金融政策運営に関して、前提となるリスク認識や為替相場との関連等も含めてお話ししたいと思います。
このところ、物価上昇や円安を受けて、日本銀行は金融政策の修正を図るべきであるとする声が聞かれます。結論を先取りすると、私は、金融政策の修正は時期尚早と考えています。先ほど申し上げたとおり、企業の成長期待はまだ高まっておらず、賃金の持続的な上昇も確認できていません。こうしたもとでは、物価は、負の外的な需要ショックに伴う景気変動に対して脆弱であり、ショックの大きさによっては日本が再度デフレに逆戻りしてしまうリスクも払拭できないと考えています。
このため、前提となるリスク認識を確認しておくことは重要です。私は、足もと、経済情勢に関するリスクは従来よりも下方に厚くなっている可能性があると懸念しています。以下でお話しするとおり、米国、欧州、中国といった主要国・地域に経済の下振れリスクがあり、それぞれのリスクが日本経済に潜在的に有するインパクトも大きいと考えています。
まず、中国では、冒頭でお話ししたとおり、依然として厳格なゼロコロナ政策が採られています。中国の景況感は、足もとでは、感染状況が落ち着きをみせ、以前停止していた生産を再開する動きから、改善傾向にあります。しかし、今後、再び感染状況が悪化した場合は、主要都市のロックダウン等の措置が工業製品の生産を下押しするリスクが懸念されます。
加えて、中国では、不動産市場の調整が経済に負のショックを与えるリスクも懸念されています。私は、これまで、政府の対策などによって、その影響は抑えられると考えていました。しかし、最近では、不動産を購入した家計の経済的な損失、不動産投資を梃子に高成長を続けてきた地方経済の成長鈍化を踏まえると、そのリスクは小さくないのではないかと懸念しています。中国当局は、仮に不動産市場の調整が強まる場合は、需要促進策を講じる可能性があると思います。一方で、ゼロコロナ政策はかなり強力な需要抑制策の側面を有しており、需要促進策の効果が大きく減じられる可能性もあります。このような状況下で、当局は大変難しい政策の舵取りを迫られるのではないかと思われます。
次に米国では、現在、1980年代初頭以来の高インフレが進行中です。また、その中身をみると、エネルギー価格高騰の寄与は相対的に小さく、賃金上昇圧力が強い中での財や住居費等のサービス価格の上昇の寄与が大きいことが特徴です。米国では、先ほど言及した「粘着的な消費者物価」が上昇率を一段と高めており、インフレ率が高止まりするリスクもあります(図表12)。物価と賃金が短期間にスパイラル的に上昇し始め、それが中長期のインフレ予想を高める場合、「粘着的な消費者物価」の制御が難しくなる可能性も懸念されます。米国の中央銀行であるFRBは、高インフレが持続することでインフレ予想の高まりが定着するリスクに対処するため、需要の抑制を図る観点から、現在、大幅な金融引き締めを行っています。また、米国では、コロナ禍において当局が実行した積極的な財政政策や緩和的な金融政策などを背景に、株式や住宅といった資産価格が上昇してきました。株価は今年に入って低下傾向にありますが、今後、米国の金融引き締めがさらに進展する局面で、資産価格の調整が生じた場合には、景気を下押しするリスクにも注意が必要です。グローバルな資産価格の連動性を考慮すると、世界規模で資産価格の調整が起こる可能性にも注意が必要です。
最後に欧州では、米国同様に高インフレに直面しています。ただし、その中身は、米国とは異なり、ウクライナ情勢を受けた天然ガス等のエネルギー価格の高騰の影響が大きいといえます。とはいえ、物価と賃金がスパイラル的に上昇すれば中長期のインフレ予想が大きく上昇し、高インフレが慢性化しかねません。このため、欧州中央銀行(ECB)も積極的な利上げを行っています。
この間、英国は難しい状況に陥りつつあるとみています。英国は、エネルギー価格の高騰に加え、EU離脱(Brexit)後に移民が減少したこともあり、コロナ禍で深刻な労働力不足に陥っています。これが賃金の高騰を伴って、物価と賃金のスパイラル的な上昇をもたらしつつあります。これまで、イングランド銀行は、米国のFRBに先立って、積極的に金融引き締めを実施してきました。こうした中で、9月下旬、英国政府が大型減税を中心とした大規模な財政出動の実施を発表したことをきっかけに、金利が急激に上昇する局面がみられました。また、英国では、金融引き締めによって金利が上昇しているにも関わらず、英ポンドは対ドルで変動相場制への移行後の最安値を記録しました。市場混乱を受け、イングランド銀行は、一時的な超長期国債買い入れや保有英国債の売却開始の延期等を行い、金融安定の確保に努めています。つい最近まで、こうした事態は殆ど想定されていませんでしたが、これが英国経済やグローバルな金融資本市場に及ぼす影響などについては、注視していく必要があると考えています。
以上のように、日本を取り巻くグローバルな金融・経済環境は、急速に下方リスクが厚みを増す展開になっています。これまで高騰を見せてきた原油価格は、足もとでは低下の動きがみられており(図表13)、これは世界経済の減速リスクを意識したものである可能性が高いとみています。歴史の教訓は、「嵐が発生する」リスクが無視できない時に金融政策を引き締め方向に転換することはリスクが大きいということを示していると思います。現在のように下方リスクが高い状況下では、金融政策を引き締め方向に修正することには慎重であるべきではないかと考えています。
為替相場
次に為替について、お話ししたいと思います。私自身、為替相場の動きが経済・物価情勢に与える影響は注視しておりますが、そうした動きを踏まえた金融政策のあり方については次のように考えています。
第1に、金融政策は、あくまでも基調としてのインフレ率が安定的に2%近傍で推移するよう、運営するべきだということです。先ほど申し上げたとおり、足もとでは、物価は上昇していますが、企業の成長期待の高まりや賃金の持続的上昇が確認できない中では、依然として、安定的・持続的に物価目標を実現するという確信を持てるには至っていないというのが実情です。
第2に、そもそも為替相場は金融政策が直接コントロールする対象ではありません。為替相場は、資産価格の一種ですが、短期的には大きく変動することは起こり得ます。このような短期的な変動が生じた際に、金融政策が、基調としてのインフレ率の目標達成を後回しにして、その都度対応することになれば、かえって先行きの政策運営に関する不透明感を高め、長い目でみれば日本経済にとっても好ましくないと思われます。
第3に、先ほど申し上げたとおり、グローバルな金融・経済環境は、急速に下方リスクが厚みを増す展開になっています。今後の帰趨が為替相場に及ぼす影響については、不確実性がきわめて高いと考えています。
金融緩和の効果
ここまで、現在、わが国は金融引き締めを行うべきタイミングにはないという趣旨のお話をさせて頂きました。
ここで日本銀行の現行の金融緩和が経済に与えているプラスの効果についてお話させて頂きます。効果のうち、私が特に大きいと考えている点としては、(1)輸出企業の業績が大企業を中心に上振れており、それが賃上げの原資になる可能性があること、(2)かつて海外に移転した生産拠点の国内回帰の動きが出始めており、それが潜在成長率の押し上げに寄与すること、(3)実質金利の低下が設備投資の拡大を後押しし、需給ギャップの改善に寄与すること等が挙げられます。
一方で、金融政策を引き締め方向に修正することはマイナスの効果が大きいと考えています。それは、住宅投資や設備投資、耐久財消費といった金利引き上げの影響を受けやすい需要が減少することで、家計や、中小企業を中心とした企業部門にも悪影響が生じ得ること等が挙げられます。また、この悪影響が累積すれば、日本が再度デフレに陥る可能性が高まることも無視できないリスクと考えています。
こうしたことから、私自身の考えでは、あくまでも2%の「物価安定の目標」の実現に向けて、緩和的な金融政策を続けることが現時点で最良の選択と考えています。
企業金融
こうした中、直近9月の金融政策決定会合では、「新型コロナ対応金融支援特別オペ」、いわゆるコロナオペを段階的に終了しつつ、幅広い資金繰りニーズに応える資金供給による対応に移行していくことを決定しました。なお、同オペは、今年の4月以降は、中小企業等に支援の対象を絞って実施してきたものです。
コロナオペを段階的に終了する背景について、私の考えをお話させて頂きます。まず、感染症が経済活動に与える影響は低下してきており、中小企業等の資金繰りは、一部に感染症の影響がなお残っているとはいえ、全体として改善傾向にあります。この間、企業の倒産件数も依然として低位で安定的に推移しています。また、コロナオペの利用ニーズは低下してきました。コロナオペのような急性の危機対応としての措置は、その役割を終えつつあると考えられます。危機対応としての措置を必要以上に継続すれば、資源配分に予期せぬ歪みが発生する可能性もあります。ただし、コロナ感染症の影響が無くなった訳ではありません。従って、当面、コロナオペの利用可能性は維持しつつ、段階的に終了することが適当と考えました。こうした中、日本銀行では、金融機関が自らリスクを取って行っている「プロパー融資」を裏付けとした部分は期限を半年延長し、それ以外の「制度融資」に対してバックファイナンスを提供する部分は3カ月延長することを決定しました。
一方で、企業では原材料価格高騰による運転資金需要が増加するなど、様々な形で資金繰りニーズが生じています。これに対応するために資金供給手段の利用可能性を高めることも適当と考えました。こうした中、日本銀行として、「共通担保資金供給オペ」について、従来、隔週で上限を2兆円として実施していましたが、その金額上限を撤廃することを決定しました。
4.おわりに ――富山県経済について――
最後に、富山県経済について、お話ししたいと思います。
富山県は、北は富山湾、南は立山連峰といった豊かな自然に囲まれていることから、豊富な農林水産資源や観光資源を有しています。また、製造業は、巨大な天然ダムからもたらされる水資源に加え、江戸時代から培われた薬業や高岡銅器の技術、北前船の拠点となった富山湾の利便性の高い港の存在を背景に、医薬品を中心とする化学、アルミ等の非鉄金属、金属製品、機械等を中心に発展してきました。現在においても、アルミニウム製のサッシ類の出荷額や医薬品生産金額は全国上位に位置するなど、富山県の製造業は、わが国の経済において重要な役割を担っています。
足もとの富山県経済は、基調としては持ち直しています。個人消費は、感染症の影響は続いていますが、足もと人流が回復傾向にある中で、衣料品や高額品の販売が好調であるなど、引き続き持ち直しの動きがみられています。この間、生産は、供給制約の影響が続いており、主力の汎用・生産用・業務用機械の増勢が鈍化するなど、持ち直しの動きが一服しています。先行きは、ウクライナ情勢などの地政学的リスクによる下押し圧力は続くとみられますが、感染抑制と経済活動の両立が進むほか、供給制約の緩和により、持ち直していくとみています。
より長い目でみれば、少子高齢化や人口減少対策、デジタル化、気候変動への対応など、中長期的な生産性の向上や成長に向けた取り組みが重要となっています。
この点、富山県では、産官学が一体となって「富山県成長戦略会議」を設立し、「幸せ人口1000万~ウェルビーイング先進地域、富山~」とのビジョンの下、県内外の人材や資本も活用しながら、活力ある地域社会の形成を目指しています。
この取り組みにおける柱の一つである「新産業戦略」では、県内企業のDX・高付加価値化の支援や、カーボンニュートラルの実現に向けた産官学の連携強化、主要産業における競争力強化といった施策を掲げています。また、スタートアップ企業の発掘・支援にも精力的に取組む方針とされています。こうした施策は、日本経済を取り巻く変化に柔軟に対応し、また、わが国全体の課題解決に資するものとして、極めて重要な取組みだと思います。
こうした動きの中で当地の金融業界においても、DXの促進に向けて取引先企業を支援するためのセミナー開催や人材育成支援に取り組んでいるほか、気候変動対応ではサステナブル・ファイナンスの推進や取引先におけるSDGs宣言策定の支援サービスなどが展開されています。
2015年3月には、北陸新幹線が開通し、東京から2時間余りと、時間距離が大幅に短縮しました。開通を契機として観光客数や宿泊者数が増加したほか、現在も富山駅周辺の再開発や本社機能の富山県への移転が進んでおり、経済効果が着実に広がっていると伺っています。さらに2024年春には福井県敦賀市までの延伸が予定されており、北陸3県の連携強化のもとで、本県の活性化に向けた取り組みが一層前進していくものと思います。
こうした富山県の持つ強みを活かした前向きな取組みが実を結び、富山県の経済が一層の発展を遂げられることを祈念しまして、挨拶の言葉とさせて頂きます。ご清聴ありがとうございました。
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