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Thursday, July 7, 2022

新時代に入ったHIV感染症治療~予後が飛躍的改善、新たな課題も~ - 時事メディカル

 エイズ(後天性免疫不全症候群)はかつて「不治の病」と言われた。しかし、患者をめぐる状況は大きく変化している。エイズを引き起こすウイルス(HIV)感染症の治療薬の進歩によって予後が劇的に改善され、一般の人と変わらない生活を送ることができるようになった。しかし、「HIVと共に生きる人々(People Living with HIV=PLHIV)」にとって新たな悩みもある。専門家は「治療の長期化に伴い重要になってきたのが患者のメンタルヘルスだ」と強調する。

死因はメンタルヘルス関連などに移りある=エイズ治療・研究開発センター(ACC)提供

 ◇血友病エイズ関連死が減少

 国立国際医療研究センター(NCGM)のエイズ治療・研究開発センター(ACC)は血友病のHIV感染者に関し、1986~2016年のデータをまとめている。それによると、1997年以降エイズ関連死は減少する一方で、2000年以降はC型肝炎ウイルス(HCV)関連死が増加した。全体の死者数は02年以降に減り、20年以降はHIV、HCVともに関連死の数が減少している。

 1980年代前半から90年代半ばすぎまでは「エイズ暗黒時代」と呼ばれている。抗HIV治療薬は逆転写酵素阻害剤(NRTI)などに限られていた。その後、HIV増殖を防ぐために多剤併用療法(ART)が主流となり、患者の予後が改善されていった。ACCの岡慎一センター長は「2020年ごろを境に、エイズは予防の時代に入った」と言う。

 ▽目立つメンタルヘルス関連死

 ACCは14~19年に登録されたHIV感染者の死亡原因をまとめている。それによると、エイズ関連が16%、胃がんや肺がんなどのエイズではないがん(NADM)が23%、メンタルヘルス関連29%、心臓・腎臓・血管神経系12%、肝臓関連10%となっている。最も多いメンタルヘルス関連には、その疑いも含まれている。

 19年に死亡した17人の原因を見ると、メンタルヘルス関連が7人とトップを占める。死亡した場所は自宅や病院外だが、自殺が疑われるケースがあるという。一方、エイズとその関連死は2人だけだ。

 エイズ患者の予後は以前に比べて大きく改善している。「こんなに長生きできるとは思わなかった」という患者の声がある一方で、メンタルヘルスが重要な課題として浮上してきた。

 ◇長時間効果が持続する治療薬

 13年に1日1回内服すればよい薬が登場し、QD(1日1回療法)という段階に入った。22年になり、QDを超えるQM(月1回療法)というステップへと進化した。1カ月に1度の投与で効果が長期間持続する注射薬の製造が承認されたからだ。

 普及すれば、患者は毎日薬を飲み続けなければならないストレスや周囲にHIV感染者であることを知られてしまうのではないかという不安から解放される。岡センター長は「QDからQMへ。HIV感染症治療は新しい時代に入った」と強調する。

東京都内で講演する岡慎一センター長

 ◇不安や差別は不要

 権威ある医学誌「ランセット」に19年に掲載された論文を紹介する。ゲイのカップル782組を2年間にわたって観察したところ、ウイルスが検出されないレベルにまで抑えられていれば、コンドームを用いない性行為でも感染はなかったとしている。「パートナーに感染するかもしれない」という不安を抱える患者にとって朗報と言えるだろう。

 岡センター長は「治療薬でウイルス量を抑えていれば、すべて『自由』だ。性行為でコンドームは要らないし、子どもを作ることもできる。普通に仕事もできる」とした上で、「一切の不安や差別、偏見は不要なものだ」と話す。

 ◇パラダイムシフト

 米国での調査で患者の満足度を聴いたところ、1カ月に1回の投与で済む注射薬の方が満足度は高く、対象となった患者のほぼ全員がこの治療を選んだという。1日1回の錠剤服用は確かに利便性が増したが、「日々、自分がHIV感染者であることを思い出しつらい」と患者は言う。それが効果が長く持続する治療薬の登場によってつらさが和らぐ。さらに、2カ月に1回投与も視野に入ってきた。岡センター長は「HIV感染症治療のパラダイムシフトだ」と評価する。(了)

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