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Sunday, March 6, 2022

戦争後にロシアを取り込む巨大経済圏、最後に勝つのは中国かもしれない理由 「挟み撃ち」の中で踏み絵を迫られる日本 - JBpress

写真はイメージです(写真:ロイター/アフロ)

 ウクライナ侵攻を受けて、米欧はロシアに対する経済制裁の実施を表明した。現時点でウクライナ問題がどう着地するのか分からないが、世界経済の観点では、今回の一件が覇権国家の分断という作用をもたらすのはほぼ確実である。具体的に言えば、欧州とロシアに大きな断絶が生じ、ロシアは中国に接近せざるを得なくなった。米欧も一体ではなく、中国は緩くロシアを取り込む形でユーラシア大陸における巨大経済圏を構築する可能性が高まっている。(加谷 珪一:経済評論家)

経済制裁でロシアはインフレが進む

 当初、米欧はロシアに対する輸出規制など、限定的な制裁にとどめる方針だった。ところが事態が悪化したことから方針を転換し、「SWIFT(国際銀行間通信協会)」からのロシア排除を含むより強力な経済制裁プランに移行した。

 SWIFTは海外送金する際の情報を一括して処理する仕組みで、ここから排除されてしまうと、送金業務が著しく滞ってしまう。原理的には、SWIFTが登場する前の時代に戻り、電話などで業務を行うという方法も残されているが、ITを使った処理とは比較にならず、事実上、ロシアの貿易は頓挫してしまう。

 しかしながら、ロシアの貿易が滞るということは、ロシアと取引している米欧各国の経済にも影響が及ぶことを意味している。特にロシアとの取引が多い欧州への影響は大きい(実際、ドイツは当初、SWIFTからの排除に反対していた)。このため現時点では、一部の金融機関の取引を制限する措置にとどまっており、貿易を全面的にストップさせるという状況には至っていない(ロシア最大手の国営ズベルバンクや天然ガス企業ガスプロム傘下のガスプロムバンクも排除対象から外れている)。停戦交渉などの推移を見ながら、段階的に制裁を強めていく方針と考えられる。

 もうひとつの強力な措置がロシア中央銀行の口座制限である。各国の中央銀行は相互に口座を開設しており、その口座を利用して為替介入などを行っている。米国の中央銀行に相当するFRB(連邦準備制度理事会)や、ECB(欧州中央銀行)にあるロシア中銀の口座に制限を加え、ロシアが為替介入できないようにする。

 為替介入ができないとロシアの通貨ルーブルが暴落し、ロシア国内はインフレが進行する可能性が高い。ロシア国民の生活は窮乏するので、プーチン政権にとっては大きな打撃となる。

 西側先進国の感覚では、一連の制裁を実施することによってロシア経済には致命的な影響が及ぶので、戦争の継続は不可能となる。ただロシアのような専制国家の場合、国民を弾圧しても戦争を強行するという手段が残されており、民主国家と比較すると無謀な戦略も一定期間継続できる可能性がある。

 こうした状況であることからプーチン体制がどの程度、持続するのかについて予想は避けるが、ロシア経済に大打撃であることは間違いない。

米欧も決して一枚岩でないことが露呈

 では、一連の状況は今後の世界経済にどのような動きをもたらすだろうか。繰り返しになるがウクライナ問題の着地点はまだ見えておらず、プーチン体制が維持できるのかも不明だ。だが、ロシアにおいて完全な民主国家が成立しない限り、米欧とロシアの分断、さらに言えば、世界経済のブロック化が進むことだけは間違いないだろう

 ロシアは金融システムにおいて米欧に決定権を握られており、手も足も出ない。ロシアが今後も経済活動を持続していくためには、中国との接近が不可避である。今回のSWIFT排除についても、ロシア側には中国が構築する国際送金ネットワーク「CIPS」を利用して、中露貿易で経済を維持するという選択肢が残されている。

 ロシアと中国は必ずしも利害が一致するわけではないものの、ロシアとしては背に腹は代えられず、中国に対して妥協する可能性は十分にある。実はロシアはこうした事態をある程度、予想しており、2014年のクリミア併合以降、中国との貿易を急ピッチで増やすとともに、国産で対応できるものは国産に切り換えるという輸入代替政策を進めてきた。今後は、ハイテクなど品不足が懸念される製品については中国から調達するという流れが加速するだろう。そうなると、ロシアは緩い形で中国の人民元経済圏に取り込まれることになる。

 今、筆者は米欧とロシア(中国)が分断すると述べたが、今回の出来事は、欧州と米国の利害も一致していないことをあらためて可視化した。

 米国は制裁を強化し、ロシアからの天然ガスの供給が滞った場合、自国産の天然ガスを欧州に売りたいと考えている。だが欧州はこうした米国依存は避けたいと考えており、そうであるがゆえに、欧州は当初、SWIFT排除に否定的であり、現時点でも最大手金融機関の排除は行っていない。

 ロシアは経済的な封じ込めを回避するため、中国への天然ガス供給を増やしてきたが、現時点での決済通貨はユーロである。欧州がこれまで進めてきた脱炭素シフトや、ロシアの天然ガス利用は、石油を背景とした米国の覇権に対抗することが目的であることを考えると、米国覇権からの脱却という点においてロシアと欧州には(お互いに反発しながらも)共通の利益が存在している。

 ウクライナ問題においては、当面、「米欧」対「ロシア」というキーワードが通用するが、水面下では米・欧・露の分断が進んでいると考えた方がよい。今後、欧州側はユーロとEU(欧州連合)を基軸とした経済のブロック化をより強力に進めていくはずだ。

ロシアと中国の経済協力が始まる

 一連の動きを整理すると、世界は欧州、中国(ロシア)、米国という3大ブロック体制にシフトしており、ウクライナ侵攻は結果的にその動きを加速させる作用をもたらしている。そうなると今後の世界経済において、その行動が注目されるのは中国ということになる。

 中国は今のところウクライナ問題に対しては静観の構えだが、少なくともロシアを批判する側には回っておらず、「ロシアと正常な貿易取引を進める」としており、むしろ間接的な支援を行っていると解釈できる。ロシアと中国の協調は、政治的な部分ではなく、見えにくい形で経済面から進んでいくだろう。今後、中国がロシアとどのような取引を行い、金融システムでの連携をどう進めていくのかをチェックしていけば、今後の中露関係についてある程度の見通しを立てることができるはずだ。

 現時点において、基軸通貨であるドルの地位は圧倒的であり、為替取引全体の44%がドルとなっており、2位のユーロは16%しかない。だが貿易や送金など実需に限定すると、ドルは40%程度のシェアを持っているのは同じだが、ユーロもほぼ同じシェアを確保しておりドルは絶対的な存在ではない。しかも中国は2030年前後に米国を抜いて、世界最大の経済大国になる可能性が濃厚である。貿易など実需取引に絞れば人民元はもはや無視できない存在となっている。

 これまでドルの地位が絶対的だったのは、経済のグローバル化によって、全世界が単一の金融市場として機能していたからである。投機を目的とした為替取引の規模は、貿易実需をはるかに上回っており、これがドルの地位を揺るぎないものにしてきた。だが金融システムも分断された場合、世界は単一市場ではなくなるので、ドルの影響力は額面以上に低下する可能性もある。通貨の影響力に貿易が占める割合が増加すれば、人民元の地位は今よりもずっと高くなるだろう。

 少なくとも国際金融市場の世界では、こうした経済システムや金融システムのブロック化、つまり分断が進むとの予想が大半であり、一部の投資家は今後のポートフォリオ戦略について具体的な検討に入っている。

 筆者はこのコラムですでに何度か指摘しているが、中国の人民元決済ネットワークには邦銀も多数参加しており、日本経済は見えないところですでに中国経済圏に取り込まれつつある。世界経済や政治体制のブロック化が進んだ場合、日本は中国やロシアと米国の板挟みになり、踏み絵を迫られる可能性は否定できない。ウクライナ問題というのは、そのままアジア太平洋地域の問題であるとの認識が必要だ。

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