
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第2期第1回
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。第2期最初の作品のテーマは「色」です。堀口時美さんの作品「アーモンドチョコレート」と山本さんの講評です。
アーモンドチョコレート
千歳空港からJRに乗り継ぎ、目的地に向かう。ここから、3時間半の長丁場だ。 4人ワンボックスの旧式車輛の進行方向の窓際に私は座る。 隣には、どんな体格の人が座るのだろう、向かいには、足の長い人が座るだろうか。 こちらの快適さを左右する条件を並べながら、その身勝手さに苦笑。 向かいの席に着席したのは、年の頃70代の品の良い小柄の2人の女性だった。 ほっとした、と同時に、びっくりした。その1人がそっくりなのだ。今、私が向かわんとしている通夜の故人に。 物腰も表情も……。妹さんだろうか、多分、そうだろう。 人見知りの私は、そっと眼を閉じる。こういう時に限って眠れない。眠ってしまえば、あっという間に時は過ぎるのに。 眠気からさめたように、眼を開ける。 次に私は、バッグから文庫本を出す。モンゴメリ作、村岡花子訳の『アンの青春』だ。娘が大絶賛していたので、少々厚くて重かったが、楽しみにしていた。またしかし、こういう時に限って、中味がまったく入ってこない。 読むふりをしたが、そのふりにも疲れて外を見る。 北海道の車窓からは、延々と同じ景色が続く。けっしてロマンチックでもメルヘンチックでもないその景色に、いつも退屈していた。そういえば、冬にこの路線に乗ったことはなかったなあ。 どこまでも、どこまでも、まっ白が続いている。周りには、ビルも看板も、道もない。こんもりとま~るく積もっている。白うさぎのようだ。粉をまとった大福のようだ。雪でドレスアップしている松の木は、ロマンチックだ。 うっとりしていると、そこに山が現れた。蝦夷(えぞ)富士と呼ばれている羊蹄山(ようていざん)だ。おうとつを、雪でしっかりとおおい、山肌はかけらも見えない。なんて、雄大でりりしくて、美しいのだろう。汚れひとつない雪原と、輝く山を、写真に残した。何枚も何枚も……。旅でもないのに、と思いながら。 そんな時に「きれいね、羊蹄山よね。」と2人の会話が聞こえてきて、安心した。 そして、景色のつづきに見入っていた時、「おひとつ、どうぞ」とアーモンドチョコレートをさし出してくれた。 やっぱり、妹さんだった。
山本ふみこさんからひとこと
まず、タイトルが素敵です。 たのしく書きたい、と回数券の裏面に書いてくださったのを見て、なるほどと思いました。 控えめでありながら、わくわく感が伝わります。 汽車のボックス席でご一緒している心持ちです。 雪景色を、白うさぎみたい! 大福みたい! と、はずんでいます。
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