2023年12月9日 19:00
「チャーリーとチョコレート工場」(2005)の前日譚と聞いてはいたが、同作とつなげるための布石や整合性には執着していない。型破りな経営者であるウィリー・ウォンカが、いかにしてショコラティエとして身を立て、規格外なチョコレート工場を建設するに至ったかを、旧バージョン(1971年の「夢のチョコレート工場」)ばりにミュージカル要素を拡張させ活写している。ティモシー・シャラメ扮するヤングウォンカはジョニー・デップのウォンカほど変人然とはしておらず、夢を実現させるために信念を曲げない純青年として物語を主導。前作がカラフルな糖衣をまとったほろ苦いビターチョコなら、さしずめ今回はバラエティ豊かに形成されたミルクチョコの詰め合わせ、といったところか。
なんか場当たり的にモノを喩えているみたいだが、ティム・バートンの感性で統制された箱庭ファンタジーを前作の特徴とするなら、「パディントン」シリーズ(2014~)のポール・キングによる本作は、英国成分を高めてシニシズムの染みた笑いを提供し、リアリティとマジカルが併存した舞台設定をシームレスに横断する。ウォンカが泊まったぼったくり宿屋から法外な宿泊費を請求され、チョコの売り上げで返済しようと蜂起する勢いがかった展開や、官僚と癒着した業界団体に個人の夢を阻害される体制へのおちょくりしかり。それらは前作よりも、原案にクレジットされたロアルド・ダールのテイストを濃厚に感じさせる。映画オリジナルでありながら、あたかもダールによって書かれた原作が存在するかのようだ。
とはいえ、バートン/ジョニデ版との密着性もまったく皆無ではない。ウォンカが抱くチョコレートへの愛情は母親(サリー・ホーキンスが素晴らしい)由来のものとして、不鮮明だった母子の関係に肉薄しているし、それ自体がウォンカと父親(クリストファー・リー)の和解を描いた前作との、感動的な対関係になっている。また「夢のチョコレート工場」に目配りした描写があったりと、細部にこだわった作りが嬉しい。
歌に踊りと弾けまくったシャラメのパフォーマンスに、開巻から目がハート型になってしまう人も多いだろうが、それもヒュー・グラントが出てくるまでのこと。彼がオレンジ色した肌に加え、縮小サイズで登場するだけでも出オチ感ありありなのに、演じるウンパルンパの身の丈を超えた厚かましい活躍でもって、映画のインパクトをひとり悠然とさらっていく。「オペレーション・フォーチュン」そして「ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り」(2023)と、かつての貴公子がここにきてお調子者な怪役が集中しているところ、その役者スタイルの変調はまるて豊川悦司あたりを見るかのよう。いずれはシャラメ様も、同じ轍を踏んでいくのだろうか。
(尾崎一男)
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