肌寒い時期が過ぎ、陽気に包まれる季節がやってきた。人と同様、様々な種類のダニの活動も活発になってくる。農作物を食い荒らしたり、春風にそよぐ洗濯物にくっついたり……。こうした厄介なダニと向き合うには、生態を知ることが重要だ。体長1ミリにも満たないダニたちの生存戦略が科学で解き明かされつつある。(石川千佳)
農作物に深刻な被害をもたらすダニといえば、葉っぱに付くダニ(ハダニ)の一種「ナミハダニ」だ。
体長0・5ミリほどで、植物の葉の裏に糸を張って巣を作り、口の針を葉に刺して汁を吸う。害虫は特定の植物に寄生することが多いが、このダニはキュウリやナシ、ナスなど1000種以上の植物に寄生する。
1匹が100個以上の卵を産み、10日もすれば世代が変わる。理論上は1匹から1か月で1000匹以上、2か月で100万匹以上に増える計算になるという。
春先から姿を見せるようになり、駆除が遅れると大発生につながる。その上、農薬に対する抵抗性を得るのも速い。すでに90種以上の農薬が効かなくなっているといい、ダニに詳しい京都大の矢野修一助教(実験生態学)は「まさに『害虫の王者』だ」と強調する。
矢野助教らの研究チームは、天敵のチョウやガの幼虫(イモムシ)を避けるハダニの習性を生かした新たな駆除方法の開発に取り組んでいる。
イモムシは体長がハダニの200倍もあり、ハダニが卵を産み付けた葉を卵ごと食べる。チームは「ハダニは巣と卵を一瞬で失う大災害を避けるため、何らかの戦略を持っているはずだ」と推測。カイコなど4種類のイモムシが歩いた葉と歩いていない葉を用意し、ハダニがどちらの葉に定着するかを調べた。
その結果、ハダニの72~100%がイモムシの足跡のない葉に定着した。足跡の効果が2日ほど持続することも分かった。
イモムシの足跡の成分を農薬にすれば、ハダニの食害から農作物を守れる可能性があるという。矢野助教は「もし他の農薬のように効かなくなれば、天敵との遭遇率が上がることになる。このため抵抗性は獲得しにくいはず」と期待する。
春になると、コンクリートの壁をちょろちょろと動く「赤い点」を見かける人もいるだろう。ビルの屋上やベランダなどで大量発生する体長1ミリ前後の「カベアナタカラダニ」だ。
花粉を主食とし、人を刺したり農作物を食い荒らしたりする被害はないが、色が目立つためビルの利用者らから「気持ちが悪い」などと苦情が相次ぐこともある。効率的に駆除するには、梅雨が始まる頃にコンクリートの亀裂などに産み付けられた卵を、次の春に
法政大の島野智之教授(動物分類学)によると、国内にビルが増えた1970年代以降、よく目撃されるようになったという。日当たりのいいコンクリート壁などに生息するが、どんな仕組みで強い紫外線や40度以上にも達する熱に耐えているのか不明だった。
島野教授らのチームは、細胞にダメージを与える活性酸素に着目。活性酸素は紫外線や熱の影響で増えるため、このダニは高い抗酸化作用を持つ赤い色素成分「アスタキサンチン」で体を守っているのではないかと推測した。これはスキンケア商品などにも配合されている成分だ。
チームがアスタキサンチンの濃度を調べたところ、過去の研究で体に多く含むことが知られていた別種のダニ(ミカンハダニ)の127倍に上り、節足動物の中で最高レベルの濃度ということが明らかになった。
島野教授は「派手な色だが、天敵のアリやカメムシは赤色を認識できないため、見つかりやすいわけではない。紫外線と熱から体を守るために獲得した赤い体色なのだろう」と話す。
からの記事と詳細 ( ダニの生存戦略 習性知り駆除に生かす - 読売新聞オンライン )
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