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Saturday, August 13, 2022

<書評>『70歳が老化の分かれ道 若さを持続する人、一気に衰える人の違い』和田秀樹 著 - 東京新聞

◆老いと闘うための心構え
[評]髙橋秀実(ノンフィクション作家)

 ベストセラーとなった本書。おそらく私たちはこの「分かれ道」という言葉に引き寄せられるのだろう。

 人生の岐路。出世するかしないか、金持ちか貧乏か、などとこれまでは四十歳五十歳あたりで立たされたような気がするのだが、本当の岐路は七十歳らしい。「七十にして心の欲する所に従えども矩(のり)を踰(こ)えず」(『論語』)というくらいで、七十歳になれば思うがままに生きても大丈夫とされてきたはずだが、実はそこに分かれ道がある。私なども「まじで?」と訝(いぶか)りつつ、今ならまだ間に合うと希望を感じ、つい本書を手にとったのである。

 長年、高齢者医療に携わってきた著者によると七十代は「老いと闘える最後のチャンス」だという。七十代をいかに過ごすかで八十代以降の人生が決まる。なにしろ人生百年時代なので、勝負は終盤に持ち込まれているのだ。

 何よりまず「意欲の低下」を防ぐ。そのためには脳の前頭葉などを活性化させる必要があり、適度な運動や日光浴、神経伝達物質であるセロトニンの生成を促すので肉を食べることが効果的らしい。数値に惑わされるだけなので健康診断は受けないほうがよい。コレステロールは免疫細胞の材料でもあるし、動脈瘤(りゅう)がなければ血圧が200でも破れたりしないとのこと。がんも進行が遅いので「知らぬが仏」と手術は避ける。アルツハイマー型認知症などは正常な老化現象なので恐れるまでもなく、それより意欲の低下から「うつ」になることを警戒すべきなのだそうだ。

 やる気まんまん。

 という心得か。私が刮目(かつもく)したのは高齢化社会は「多様性に満ちた社会」だという指摘。同年代でも寝たきりの人もいればスポーツで汗をかく人もいる。個人差が格段に広がるそうで、人生は終盤でこそ多様性が出現するのだ。そして著者の簡潔な物言いも参考になった。「介護を生きがいにしない」「やさしくなることが、幸せへの近道」等々。歳をとると話が長くなりがちだが、話は短くわかりやすく。老後大切になるという人付き合いのためにも肝に銘じたい。

(詩想社新書・1100円)

1960年生まれ。精神科医。高齢者医療の現場に30年以上携わっている。

◆もう1冊

和田秀樹著『80歳の壁』(幻冬舎新書)など同じ著者の本が多数出ている。

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