社会課題を解決する
2022年 3月14日
夜空に突如として現れ、願い事を唱える間もなくスーッと消えていく流れ星。見る人を宇宙のロマンにいざなうが、その流れ星を人工衛星で降らせようという壮大な事業を進めているのが「科学を社会につなぎ 宇宙を文化圏にする」とのミッションを掲げる株式会社ALE(エール、東京都港区)だ。人工流れ星という「宇宙エンターテインメント」で基礎科学への関心を導き出すとともに、気候変動のメカニズム解明や宇宙デブリの防止といった社会課題の解決も目指すとした同社の取り組みには各方面から大きな期待が寄せられている。同社の創業者で代表取締役/CEOをつとめる岡島礼奈(れな)氏は、中小機構主催の「第21回Japan Venture Awards」で内閣府科学技術政策担当大臣賞を受賞した。
シリウス並みの明るさ「願い事を3回唱えられそう」
星空の美しさで知られる鳥取県で生まれ育った岡島氏が宇宙に興味を抱くようになったのは中学生の頃。イギリスの物理学者、スティーブン・ホーキング氏の著書『ホーキング、宇宙を語る』を読んだのがきっかけだった。その後、東京大学に入り、天文学を専攻。そして在学中の2001年に千葉県内で目にした「しし座流星群」が岡島氏に大きな衝撃を与えた。その美しさに感動した岡島氏は「流れ星は大気圏に突入する宇宙の塵。宇宙で塵を放てば人工の流れ星が作れるのでは」と思いついたという。夢物語のようなプロジェクトの始まりだった。
大学院でも天文学を学んだ岡島氏は博士課程修了後の2008年、ゴールドマン・サックス証券に就職した。金融機関で金の流れや調達方法を学びたいという考えもあったのだが、入社した年にリーマン・ショックが起き、約1年で退職を余儀なくされた。その後、コンサルビジネスを経て2011年にALEを設立。たった1人の起業ではあったが、「いつかは人工流れ星の会社をつくる」との思いがついに実現した。「宇宙関連の事業は国がやるものでは」との声が多く聞かれた一方で、人工流れ星という目新しいアイデアに最初に興味を示したのは個人投資家。その後、ベンチャーキャピタルからの出資も得られるようになった。
同社が目指す人工流れ星などのエンターテインメント事業は「Sky Canvas」と呼ばれる。夜空をキャンバスに見立て人工流れ星で美しい景観を描こうというものだ。流れ星の素となる「流星源」という直径1cmほどの金属の粒を自社開発の人工衛星に載せて宇宙から放つと、粒が大気圏突入の際に燃え尽き、その様子が地上からは流れ星に見えるのだ。 冬の星座、おおいぬ座で最も明るいシリウス並みで、都会でも肉眼で見える程度の明るさという。また、1秒足らずで消えていく天然の流れ星よりも速度は遅く、数秒ほどは眺められるという。「短い単語であれば、流れ星に願い事を3回唱えられそう」と岡島氏。実現すれば、大規模な集客につながる一大イベントとなりうる。
GPSに応用されたアインシュタインの相対性理論
夢とロマンがあふれる壮大な事業だが、人を楽しませるだけが目的ではない。「人工流れ星というエンターテインメントをきっかけに、宇宙、そして科学、とくに基礎科学への興味を多くの人たちに持ってほしい」というのが岡島氏の考えだ。基礎科学はややもすれば役に立たないものとみられがち。岡島氏が学生時代に天文学を専攻した際にも「なんの役に立つの?」との言葉を何度も投げかけられたという。しかし、「100年、200年のスパンで見れば、人類の歴史に大きなイノベーションをもたらしてきたものは基礎科学だ」というのが岡島氏の持論である。
たとえば、現在の生活で重宝しているGPSには、宇宙空間と地上との時間のズレについて説明しているアインシュタインの一般相対性理論が応用されている。一般相対性理論は1916年に完成したものだが、「100年後の社会でスマートフォンの地図アプリに使われるなんて、アインシュタインはまったく思いもよらなかったはず」と岡島氏。さらに「物理学がさらに進化すると、いつかは『宇宙戦艦ヤマト』のように宇宙をワープすることも可能になるかもしれない」と話す。
これほど重要な基礎科学について、天文学に関心のない人でも空を見上げるであろう人工流れ星というエンターテインメントを通じて、広く認識してもらいたい。それが岡島氏の思いである。
気候変動メカニズム解明や宇宙デブリ防止も
同社は、人工流れ星の「Sky Canvas」事業のほか、大気データ事業と宇宙デブリ対策事業を手掛けている。いずれも人工流れ星への取り組みから派生したものだが、社会課題の解決にも大いに貢献することが期待されている。
このうち大気データ事業は、中層大気データを、小型衛星に搭載したセンサーや人工流れ星の軌道、発光から得て、地球の気候変動のメカニズム解明に活用しようというもの。とくに、地上からは取得が難しい海上の大気データを人工衛星から集めることで、近年、世界各地に多大な被害をもたらしているゲリラ豪雨や大型台風など異常気象の予測精度を高めることにつながるという。
また宇宙デブリ事業は、役割を終えた人工衛星がそのまま宇宙空間に残ってデブリ(ごみ)になることを防止するもので、同社の人工衛星には宇宙デブリ拡散防止装置が搭載されている。同装置により、例えば流星源の放出や大気データの取得といった役割を終了した人工衛星はその後すみやかに軌道を離脱して大気圏に再突入し、焼却・廃棄となる。人工衛星もまた、流れ星となって華々しい最後を飾ることになるのだ。実証を行った後、同装置の製造・販売を事業化する考えだ。
このように、人工流れ星から始まった同社は、気候変動のメカニズム解明や宇宙デブリの防止へと事業領域を広げ、科学と人類の持続的な発展に貢献できるビジネスを目指すベンチャーに進化した。「かつては『科学とエンターテインメントの両立させる』ぐらいで、うまく言語化できていなかった」(岡島氏)という同社のミッションも現在は「科学を宇宙につなぎ、宇宙を文化圏につなぐ」という明確なものとなっている。
失敗を教訓に目指すは2023年のマイルストーン
とはいえ、事業は常に順調に進んでいる、というわけではない。以前は2020年中に人工衛星2号機から人工流れ星を実現させる計画だった。しかし、打ち上げには成功したものの、2号機に動作不良があり、流星源を放出できなかったのだ。計画は2023年に先送りとなった。「IT産業と異なり、宇宙ビジネスでは2、3年の遅れなどはよくあること」(岡島氏)というが、なかには短期のリターンを求める機関投資家もあり、同社にとって痛手となったことは否めない。
社内にも動揺が見られるかと危惧されたが、延期が直接のきっかけとなって離職した社員は1人もいなかった。岡島氏が明確にした同社のミッションを社員全員が共有し、1回の失敗ではぶれない強い組織に成長した証しだろう。今回のJVA受賞もいっそう喜ばしいものだったという。「人工流れ星を実現できなかった、このタイミングでの受賞に勇気づけられた。大きな期待を感じていて、ぜひともその期待に応えたい」と岡島氏は語る
今後は、2023年に人工流れ星を成功させることが最大の目標であり、同社にとっては将来を左右するマイルストーンとなる。「前回の失敗から得た教訓もフィードバックしており、100%近い成功の自信がある」(岡島氏)。夜空に舞う幾多の流れ星を目にする日が待ち遠しい。
企業データ
- 企業名
- 株式会社ALE
- Webサイト
- 設立
- 2011年9月1日
- 資本金
- 1億円
- 従業員数
- 約40人
- 代表者
- 岡島礼奈氏
- 所在地
- 東京都港区芝公園2-10-1 住友不動産芝園ビル7階
- Tel
- 03-6441-3312 (代表)
- 事業内容
- 宇宙エンターテインメント事業「Sky Canvas」・大気データ事業・宇宙デブリ対策事業
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