構成作家の小山薫堂さんは「お金を生き金にするのも、死に金にするのも使い方次第」と語る。テレビ番組『料理の鉄人』など数々のヒット企画の背景には薫堂さんならではの「有意義なお金の使い方」があった。
撮影:ERIKO KAJI
「お金を生き金にするのも、死に金にするのも、要は使い方次第」
そう語るのは、テレビ番組『料理の鉄人』『カノッサの屈辱』や映画『おくりびと』の脚本や「くまモン」の生みの親などで知られる構成作家の小山薫堂さんです。
「誰かに贈り物をすることが好き」という薫堂さんですが、有意義なお金の使い方は自分の人生はもちろん、誰かの人生も変えることがあると語ります。
そして、薫堂さんはこうも言います。
「もらった人間よりも、与えた人間の方が喜びは持続する」
吝嗇家(りんしょくか)だった父に影響された幼少期、20代で伝説的料理番組『料理の鉄人』を生み出すきっかけになった思い切った“浪費”、京都の陶芸家にもらった「最高のお土産」などなど、数々のエピソードとともに人生を豊かにする「有意義なお金の使い方」と企画の思考法を薫堂さんに聞きました。
「もらった人より、与えた人のほうが喜びは持続する」の意味
撮影:ERIKO KAJI
── 薫堂さんは贈り物で人を喜ばせることが好きだと伺いましたが、お父さまの影響が大きいそうですね。
父は消費者金融を営んでいたのですが、とにかくケチだったんです。
でもケチであるがゆえ、人に何か贈り物をするときには、安い金額でもいかに人を感動させられるかを考えていました。
例えばお年玉。1万円札を1枚渡すよりも100円札を100枚渡した方が感動させられるんじゃないかって。
同じ「価格」でも、手渡しかた一つで「価値」が変わる。それは物語性のある「演出」であり、人の心を揺さぶる……。そんなことを子供の頃からずっと考えていました。
だんだん自分も年を取ってきて、時に色々なものをいただいたり、人にあげることも増えてきました。
新著『妄想浪費』のあとがきでも触れましたが、青森・弘前に「わいんぱぶ ためのぶ」という高齢のご夫婦が経営されているワインバーがありまして。ある日、そこのご主人にこう言われたんです。
「もらった人間よりも、与えた人間の方が喜びは持続するんだ」
この言葉は僕にとって衝撃的でした。何かをプレゼントしたとき、お相手に喜んでいただけたものは、自分の思い出にもなるんですね。
── それ以来、誰かに贈り物をする喜びを、より噛み締めるようになった。
BSフジで『東京会議』という番組に出演しているのですが、さっきここで収録していたテーマが「ギフトモール」というギフトをテーマにしたECサイトでした。
彼らのリサーチデータによると、「贈り物の回数が多い人ほど幸福度が高い」と。でも、それは「年収とは関係がない」らしいのです。
年収が高い人でも、贈り物をした回数が少ない人は幸福度が低いらしいんですね。
もしかしたら、幸福度が高い人ほど贈り物をするのかもしれません。
どちらが先かはわかりませんが、いずれにしろ「贈る」という行為とその人の幸福度は比例する傾向があるようなんです。
幸福度については「自分の今の仕事、暮らしに満足してますか?」みたいなアンケートで調査していくものだそうで。
そういえば熊本県も幸福度調査をやっていて「何回泣きましたか?」とか聞いていたんですね。
もちろん「幸福」の尺度は人それぞれです。「泣く」ことが「悲しみ」の場合もあれば「嬉し涙」の場合もあるわけで。
ただ、年収が高ければみな「幸福」と感じるとは限らないという話は興味深いですよね。
誰かのためにお金を使うということ……それはもしかしたら、一方的かもしれませんが、使った人に「喜び」が芽生えるものかもしれません。
贈り物は「値段」ではなく「相手を想う心」が大事
撮影:ERIKO KAJI
── 薫堂さんがもらった中で、心に残った贈り物にはどんなものがありますか。
以前、京都のある陶芸家の先生から頂いたものですね。ある日、機会ができたので、ご挨拶に伺った時のことでした。
先生は僕が来るとはご存知なかったようで。こちらが手土産をお渡しして、庭先でやり取りをしていたら「あっ!そうだ!」と、声をあげたかと思うと、庭にある立派な椿の木のところへ……。
そこで「この椿、本当にきれいなんで持っていってください」って、剪定バサミで、いまにも花開きそうな蕾をパチン、パチンと切って持たせてくださった。
家に帰って、すぐ水に活けたら2日後にはとってもきれいな花が咲いた。そして、散っていく様も美しかった。
── きっと、その椿の花が最も美しい瞬間を薫堂さんに見せたかったのでしょうね。
考えてみたら、花束じゃないから相手への負担にもならないんですよね。
贈り物って値段が全てではないんです。相手のことを思う気持ちが大切なんだなと。
東京だとなかなか感じにくいですが、これって日本の「お裾分け」文化ですよね。「あげる」ではなく「わける」という言葉もいい。分かち合う、シェアの文化ですよね。
それと、骨折して入院したときに頂いたお土産にも思い出深いものがあります。
京都にある和菓子屋さん「京菓子司 末富」のご主人・山口祥二さんが、「薫堂さんの病室にはお見舞いの人がたくさん来るだろうから……」と。
お返しで渡せるお土産のお菓子30人分ぐらいを個別包装で、袋まで付けて持ってきてくれた。あのときも感動しました。
── 薫堂さんのことも考えているし、お見舞いにきた方のことまで考えている。 幸せを同心円状に広げている感じがしますね。
二手先まで読んでいるんですよね。本当にすごいなと思いました。
── コロナ禍が続く中、暮らしにゆとりがなくなり、心が内向きになることもあります。でも、そういう時こそ誰かのことを考えたり、外の世界に目を向けることが大切なのかもしれません。
「贈り物」もそうですが、誰かに喜んでもらいたい、あるいは誰かを喜ばせたい……と、誰かが喜ぶのが嬉しいと思う気持ちって、人の本能の一つだと思うんです。
自分がしたことによって誰かが喜んで、それを見て「うわぁ、ムカつく」って、なかなかありませんよね(笑)
自分の存在価値を認めてほしいと思う気持ち、それは人の本能だと僕は思うんです。
写真家のハービー山口さん曰く「見返りを期待しない貢献をしたとき、人間力は鍛えられる」と。
ぐるなび会長の滝久雄さんも、利他や貢献活動について「ロジックじゃなくて本能だ」とおっしゃっていました。
「貢献活動には愛から発するものと、哀れみから発する者の両方があり、哀れみの感情には自尊心や虚栄心とのすり替えが起こるのに対し、愛には本能的に与える喜びがある」 (滝久雄さんの言葉──『妄想浪費』より)
『料理の鉄人』も投資する“浪費”から生まれた。
撮影:ERIKO KAJI
──「有意義なお金の使い方」がお仕事に活かされた経験はありますか。
それはいっぱいありますね。僕が一番最初に意識してお金を使ったのは27歳の時、ポルシェを買ったんですよ。
ポルシェが好きだったのもありますが、ポルシェを持っているオーナーズクラブの人たちとつながることができると思ったんですよね。
もちろん、それまで富裕層のクローズドなクラブのことなんて全く知らなかった。
でも、そこで「あっ、こういう会社の社長がいるんだ」「こういうふうな人がいるんだ」と色々な人と知り合ったりする。
さらにその人たちの話を聞き、それがきっかけで面白い人や面白い場所、お店を勉強しました。
特に大きかったのが、美味しい料理店や腕の良い料理人さんと出会えたことです。実は、これが後々になって『料理の鉄人』の立ち上げにつながった。
お店だけでなく「料理人」さんの存在の大きさに気づかされた。この経験は大きかったですね。
例えば、イタリアンの落合務シェフっていらっしゃいますよね。
── LA BETTOLAのオーナーシェフですね。テレビでもお見かけします。
あの当時、落合さんは「グラナータ」というTBS会館の地下にあったレストランにいた一人のシェフだったんです。
ポルシェクラブで知り合った人と食事をした時に「腕のいいシェフがいるんだ」と落合さんを紹介されて。それで「今度独立することになりまして」と。その後、ご自身でお店を開かれたんです。
こういった料理人さんたちとの人脈は、趣味の仲間から広がっていきました。
有意義なお金の使い方は、やがて「ひらめき」につながる
撮影:ERIKO KAJI
── 一つの企画の裏には思い切ったお金の使い方と、そこから生まれた人との繋がりがあった。
仕事以外の世界や人脈を広げることが、実はその後の自分の仕事につながっていくことってあると思うんです。
もちろん、迫った締切をどうやって乗り越えようか……と追い込まれたら、何となくひらめいた企画もありますよ(笑)
でも、いい企画を思いついたりする「ひらめき」って、単なる思いつきではないんです。
ひらめきやアイデアは、自分の脳に蓄えられている知見と、五感から入ってくる新たな情報との化学反応なんですよね。
── そのゾーンに入るには、日々の過ごし方にかかっているんでしょうか。
そうですね。ひらめきを生み出す、言ってみれば「火打ち石」みたいなもの。「視点」だと思うんです。
──「視点」ですか。
そう、視点。もっと言えば「見方」でしょうか。
そして、日々ストックする知見や学びが「油」や「火薬」みたいなもの。それらをどう掛け合わせたら面白くなるか、視点や見方を変えてみると火花が出て、爆発を起こして広がっていく。
たとえば、そこに屏風がありますよね。
撮影:吉川慧
この屏風を見ても人によって感じ方が違うと思うんです。
「あ、屏風があるな」としか思わない人もいるでしょう。一方で「お坊さんが描かれているな。だけど、一人だけ向こう側を向いている。なんでだろう?」って思う人もいるでしょう。
「5人はこっちを向いて、一人だけ向こう向いてるな」って考える人は、そこから物語を生み出すかもしれない。
自分の目で見たものがどう物語に変わっていくか。それは、自分の中にある知識や経験が生きてくる。「そういえば、昔住んでいた家の近所で、同じようなシチュエーションがあったなあ……」とか。
五感と知見がうまく組み合わさっていく、それが「ひらめき」かなと思います。
── 企画をつくる上での秘訣として、薫堂さんは「企画とは誕生日プレゼントのようなもの」と記されていました。
「企画とは誕生日プレゼントのようなもの。何を贈って、どう喜ばせられるか——つまり、どれだけ人を楽しませてあげられるか、幸せにしてあげられるかに尽きる」(『妄想浪費』より)
1990年代の前半、日本テレビ系列の深夜情報番組「EXテレビ」の構成を担当していたことがありました。「11PM」の番組ですね。
僕の担当は月曜日で、月曜は「マーケティング」がテーマ。ゲスト解説には、慶應義塾大学の村田昭治教授をお呼びしていた。日本のマーケティング論の第一人者です。
その村田さんがいつも「マーケティング、それは愛です」って言うんですよ。日本で一番権威のあるマーケティングの先生ですよ?(笑)
当時の僕は「そんな抽象的なことじゃなくて、もっとスパッと鋭い解説をして欲しいのに!!!」って思っていたのに、村田さんは「いいかい?マーケティングっていうのは愛なんだよ」と言い続けたんです。
でも、この年齢になってその意味がわかった気がします。
「浪費は文化をつくる」「お金は拍手」
撮影:ERIKO KAJI
── 薫堂さんはいま57歳。年齢を重ね、仕事にも幅が生まれています。10年前から京都の老舗料亭「下鴨茶寮」の経営にも携わっていますが、著書の中にあった茶道具に関する話が印象的でした。
僕も京都で学んだのですが、茶の湯の世界では良い茶道具を持っている人は「持っている」というより「お預かりしている」という言葉を使うんですね。
これまで300年、400年と受け継がれてきて、そしてこの先の未来につなげていく「文化」でもあるわけです。貴重なお茶碗や道具は「これは俺だけのものだ」「どんな物も買った人のものだ」という感覚であってはいけない。
茶道具は自分や次の代が手放しても、どんどん所有者が入れ替わっていきます。
自分がお金を払って「いまはお預かりしている」と思えるのって素敵だな……ということに、年齢を重ねたからこそ気付けたんですね。
日常生活の中だとそういう感覚はなかなか出てこないですよね。お茶の世界は奥が深いなぁと思いました。
── 茶の湯の世界には伝統があり、金銭的に余裕のある方々もパトロンになっている。お金持ちがお金を使ってくれることで、次の世代に文化もつながっていく。
文化のバトンですよね。文化や芸術は、ある種の浪費や余白の中で生まれてくるんだと思うんです。
「浪費」って、言葉としては悪いように聞こえますけど、そうとは限らないと思うんです。歴史を見ても、芸術はパトロン精神で生まれてくることが多い。お金持ちほど「浪費」してほしい。
傍から見たら浪費でも、その人や社会の未来につながる良いお金の使い方ってありますよね。
── “推し活”にもつながる話ですね。
みんなが「自分のためだけ」という感覚でお金をつかったり、本当に必要なものにしかお金を使わなくなったら、世の中はつまらない社会になってしまうと思います。
好きなアイドルや応援したい人、コンテンツにお金を使うこともそうですよね。「お金は拍手」という面もあります。ぜひ拍手になる無駄遣いをしてほしいなと思います。
小山薫堂(こやまくんどう):放送作家・脚本家・京都芸術大学副学長。下鴨茶寮主人。1964年、熊本県本渡市(現・天草市)生まれ。日本大学藝術学部放送学科在学中に放送作家としての活動を開始し、『カノッサの屈辱』『料理の鉄人』『東京ワンダーホテル』『ニューデザインパラダイス』など斬新な番組を数多く企画・構成。初の映画脚本となる『おくりびと』では、第81回米アカデミー賞外国語映画賞を受賞した。執筆活動のほか、ラジオパーソナリティー、商品開発、企業のプロジェクトアドバイザー、熊本県や京都市など地方創生の企画にも携わっている。熊本県のPRキャラクター「くまモン」の生みの親でもある。2020年10月、一般社団法人湯道文化振興会を設立。2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)ではテーマ事業プロデューサーを務める。著書に『考えないヒント』『小山薫堂 幸せの仕事術』『ライカと歩く京都』『まってる。』など多数。
(聞き手、文・吉川慧)
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