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Thursday, January 6, 2022

梅毒に対する持続性ペニシリン製剤が薬価収載 - 日経メディカル

 2021年11月25日、持続性ペニシリン製剤のベンジルペニシリンベンザチン水和物(商品名ステルイズ水性懸濁筋注60万単位シリンジ、同水性懸濁筋注240万単位シリンジ)が薬価収載された。本薬は、2021年9月27日に製造販売が承認されていた。適応菌種は梅毒トレポネーマ、適応症は梅毒(神経梅毒を除く)である。用法用量は、成人および2歳以上の小児では「早期梅毒に240万単位を単回、後期梅毒に1回240万単位を週1回、計3回を筋注」であり、2歳以上13歳未満については「いずれも年齢、体重により適宜減量は可能」となっている。2歳未満の小児では「早期先天梅毒及び早期梅毒に5万単位/kgを単回、筋注」となっている。

 梅毒は、スピロヘータの一種である梅毒トレポネーマによって引き起こされ、性行為などによる粘膜接触を介して感染することで発症する、世界中に広く分布している性感染症である。感染後3~6週間程度の潜伏期を経て、経時的に全身などに様々な臨床症状が逐次出現する。梅毒の臨床症状は、感染時期と所見によって、第1期梅毒、第2期梅毒、潜伏梅毒(早期潜伏梅毒、後期潜伏梅毒)、晩期梅毒に分類される。また、第1期梅毒、第2期梅毒、早期潜伏梅毒は早期梅毒、後期潜伏梅毒、晩期梅毒、罹患時期不明の梅毒は後期梅毒に分類されており、診断医師は7日以内に保健所への届け出が必要な5類感染症(感染症法)である。

 梅毒の予防では、特に感染力が強い第1期、第2期の感染者との性行為などを避けることが基本である。また、治療に関しては、ペニシリン系抗菌薬が有効であり、特に筋注製剤のベンジルペニシリン(PCG)のベンザチン塩(ベンジルペニシリンベンザチン水和物)が世界各国で第1選択薬となっている。PCGベンザチンは、筋注部位で活性本体PCGに加水分解され抗菌作用を発揮する。PCGが細菌のペニシリン結合蛋白(PBP)の活性部位に共有結合し、細菌の細胞壁の主成分ペプチドグリカンの生合成(架橋形成)を阻害する。このことにより、細胞分裂時の細胞壁を脆弱化し、内外の浸透圧差から溶菌を引き起こす。

 しかし、日本では、PCGベンザチン筋注製剤は1980年代に販売中止・承認整理されたことから、現在まで、経口薬のPCGベンザチン水和物(バイシリンG)、アモキシシリン水和物(サワシリンパセトシン他)、アンピシリン(ビクシリン)、注射薬のベンジルペニシリンカリウム(注射用ペニシリンGカリウム)などが使用されていた。しかし、PCGベンザチンの経口薬やPCGカリウムの注射薬は、有効血中PCG濃度の持続時間が短く1日に複数回投与となり、さらに注射薬では入院管理が必要となり、患者負担も多いのが問題となっていた。

 ステルイズは、早期開発・承認を求める要望書が日本感染症教育研究会から厚生労働省に提出され、2012年の「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」にて高い評価を受けた。今回の承認は、日本人健康成人を対象とした薬物動態試験(第I相試験)成績、国内外の公表文献などに基づき承認申請されたことで、承認に至った。PCGベンザチンの筋注製剤は、海外ガイドラインにおいて梅毒治療の推奨薬として記載されていること、経口薬と異なり初回通過効果を考慮する必要がなく、早期梅毒では単回筋注であり複数回の投与や入院管理も必要とせず、アドヒアランスの低下による治療失敗が考え難いなどの特徴を有している。

 副作用として、皮疹(斑状丘疹状皮疹、剥脱性皮膚炎)、蕁麻疹、喉頭浮腫、発熱などがあり、重大なものはショック、アナフィラキシー、偽膜性大腸炎、中毒性表皮壊死融解症(TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、間質性腎炎、急性腎障害、溶血性貧血の可能性があるので十分注意する必要がある。

 また、薬剤使用に際しては、事前に国内外の各種ガイドラインなど、最新の情報を参考にして投与することに留意しておかなければならない。

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