コロナ禍でインバウンド(訪日外国人客)が消滅して大打撃を受けた関西の観光地がコロナ後を見据え、持続可能な観光の形を模索している。国内客の誘致に力を入れたり、問題となった観光公害を防ぎながら地域経済の振興をめざしたりする動きが出ている。(箱谷真司)
紀伊半島南部のJR紀伊田辺駅(和歌山県田辺市)。和歌山、奈良、三重、大阪にまたがる世界遺産の熊野古道に向かう「玄関口」である駅の周辺はコロナ前、インバウンドでにぎわったが、10月上旬の正午ごろに訪ねると、駅前のバス停には日本人の高齢者が数人並ぶだけだった。
「昨年の春から赤字続き。(9月末の全国での)緊急事態宣言解除後はビジネス客が少し戻ったが、大変な状況は変わらない」。駅近くで15部屋の美吉屋旅館を経営する吉本健さん(38)は肩を落とす。
ひと昔前は、主な宿泊客は遠方から来る工事業者や合宿をする学生だったが、高速道路が整備されて日帰りする業者が増えたり、少子化が進んだりした影響もあり、宿泊客が減った。そんな中、「インバウンドが第三の柱として収入を穴埋めしてくれた」という。
和歌山県の統計によると、2019年の田辺市内の外国人宿泊者数は5万926人と(5市町村の合併で現田辺市になった)05年の45倍に増加。国別では欧米やオーストラリアの旅行客が多かった。美吉屋では、宿泊客はオーストラリアが半数超で、米国やフランスが続いた。観光シーズンの春や秋に宿泊客の8割超が外国人だったこともある。日本の自然や歴史を感じたいという人たちが熊野古道へ向かう前に泊まった。
大阪市中心部などでは量販店で化粧品などを買い込むアジアからの訪日客の「爆買い」が注目された。一方、田辺市では「爆買い」の光景はないが、旅行者は熊野古道を数日にわたって歩いて巡るため、市内での滞在時間は長い。市観光振興課によると、紀伊田辺駅近くではゲストハウスが相次いで開業し、英語表記のメニュー表を用意する飲食店も増え、インバウンドが地域経済を支えた。市の担当者は「外国人の受け入れ態勢も充実してきて、経済効果は大きかった」と話す。
それだけに、インバウンドが…
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