新聞記者だった筆者は結婚以来19年間、夫婦で全国を転々としてきたが、メラノーマ(悪性黒色腫)というがんで51歳の妻を失った。そんな2人の日々をつづった新著『僕のコーチはがんの妻』をベースに、今回は後編として、闘病中のエピソードとそこから得た経験を基にしたアドバイスをお届けする。 末期がん妻が新聞記者の夫に遺した意外なもの 前編:「末期がん妻が新聞記者の夫に遺した意外なもの」 ■完治を信じて治験へ 「大阪国際がんセンター」の主治医の説明では、妻の肝臓に複数の転移があるため手術はできないという。
薬は、分子標的薬とオプジーボなどの免疫チェックポイント阻害薬の2種類がある。分子標的薬は6割の人に効くが効力が長続きしない。免疫の薬は効く割合が低いが、一度効くと長く持続する。 もうひとつの選択肢は、ふたつの薬を併用する臨床試験(治験)への参加だ。即効性と持続性の両立が期待できるという。完治の確率を少しでも高めるため、僕らは迷わず治験を選んだ。 治験の事前検査中だった2018年3月4日未明、「ミツル、ミツル!」と僕を呼ぶ、くぐもった悲鳴が聞こえてきた。あわててリビングに行くと、「痛い、痛い」とうなって倒れている。「救急車呼ぶわ」「その前にがんセンターに電話して。それから、靴と診察券と下着を用意して」。激痛に襲われている妻のほうが冷静だった。
搬送の翌日、痛みが落ち着いた妻は「寝室から叫んでも気づかないから、台所まではって出た。気づいてもらえないのがいちばんしんどかった」と口をとがらせた。 「ゴメン」と謝ると、ニヤっと笑って「1日絶食やて。昨日パフェを食べといてよかった。ひな祭りのちらしずし、つくりたかったなあ。干しシイタケを水にもどしておいたのになあ……」と食べ物のことばかりしゃべりつづけた。 妻が入院中は毎日、手紙を書いて病室に届けていた。手紙を読む数分間だけでも病気を忘れてほしかったからだ。「手紙をもらって自分が認められたことに安心した」「ミツルの私に対する気持ちが伝わって幸せや」と妻は喜んでくれた。でも一度だけ、その手紙で妻を怒らせた。
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December 04, 2020 at 06:31AM
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