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Friday, November 20, 2020

奴隷労働に立ち向かうオランダのチョコレート会社「トニーズチョコロンリー」、日本に初上陸 | 世界のソーシャルグッドなアイデアマガジン - IDEAS FOR GOOD

間食に欠かせないチョコレート。実際、日本人が2番目によく食べるお菓子がチョコレートだという(※1)。一方で、私たちがいつも食べているチョコレートの生産が、奴隷のような強制労働や児童労働に加担している可能性があるということをご存知だろうか。

オランダ発のチョコレートメーカー「Tony’s Chocolonely(トニーズチョコロンリー)」は、こういったビターな現実を、甘いチョコレートをメディアにして世界中に伝えている。2020年11月現在、トニーズチョコロンリーが日本初のポップアップ店舗を東京・有楽町マルイで開催しているタイミングで、同社の“チョコエバンゲリスト”Ynzo氏に、創業の背景から同社の商品の特徴、成功の秘訣などについて話を聞いた。

"Choco Evangelist" Ynzo氏

“Choco Evangelist” Ynzo氏

ジャーナリストがチョコレート会社を創業

世界のカカオ生産量の60%以上を占める西アフリカのガーナやコートジボワールのカカオ農業では、現代でも奴隷のような強制労働や児童労働が存在し、156万人ほどの子どもたちが違法な労働に就いていると言われている。なぜ、カカオ生産と奴隷労働は密接に関わっているのだろうか。

それは、カカオ豆の生産からチョコレートになって消費者の手に届くまでのサプライチェーンが不公平なことから発生している。何百万人もの農家が生産したカカオは、一握りのカカオ業者が購入・加工し、何十億人もの消費者の手に届く。その過程で、大手チョコレート会社の多くが、農家に支払う価格を非常に安くしているため、農家は生計を立てるのに十分な資金を得ることができず、貧困を抜け出すことができないのだ。このチョコレート生産に関する不公平な構造および奴隷労働は、16世紀のヨーロッパ諸国の植民地政策の頃から行われ、現在でも続いている、非常に根の深いシステムである。

ガーナでのカカオ前生産の様子

Image via Tony’s chocolonely

こういった状況を知り、ショックを受けたオランダ人ジャーナリストのTeun(トニー)氏は、自身が担当するオランダのテレビ番組の中で、チョコレートに関する問題を取り上げ、カカオ生産の現場に行き取材とリサーチを重ねた。そして、アフリカの奴隷労働で作られたチョコレートバーを食べた自分を犯罪者として告訴したのだ。

結局、トニー氏は不起訴処分となったが、この問題に対する認知をさらに高めようと大手チョコレート会社に解決を働きかけた。しかし思うように動いてもらえず、最終的に自らが見本になって100%奴隷労働のないチョコレートを作ろうと、2005年に「トニーズチョコロンリー」を創業したのだ。

奴隷労働ゼロのチョコレートにするための5つの材料

「100%奴隷労働のないチョコレートを作る」というミッションを実現させるため、トニーズチョコロンリーは次の5つの調達原則に基づいてビジネスを行っている。

一つ目は、カカオ豆を追跡可能にすることだ。通常、チョコレート会社がカカオ豆を購入する段階で、フェアトレードなどの認証がある豆もそうでない豆も混ざってしまい、分別するのが難しくなっている。そのため、同社は現地パートナーの協同組合から直接カカオ豆を調達し、トレーサビリティを担保することで、奴隷労働に加担しないよう配慮している。

カカオ豆とチョコレート

Image via shutterstock

二つ目は、通常のフェアトレード認証の価格よりも割増ししたトニーズプレミアムを農家に支払うことだ。このプレミア価格は、農家がきちんと生活できるだけの賃金で、フェアトレード認証の価格に約30%から40%ほど上乗せした金額になっている。

Ynzo氏は「フェアトレード認証だけでは十分ではない」と主張する。実際、フェアトレード商品であっても、カカオ農家が受け取る利益はチョコレートのサプライチェーン全体のわずか10%以下に過ぎないというデータもある(※2)。トニーズチョコロンリーは、農家の生活費をベースに公平なカカオ価格を計算してスタートした、初めてのチョコレート会社なのだ。

三つ目は、強い農家を育てることだ。そのため、同社はお金、時間、人的資源を協同組合に投資し、団体として自立するように支援している。他にも、力のある協同組合ができると、農薬や機材をまとめて購入する際に交渉しやすくなり、スケールメリットを活かすことができる。同社のスタッフも現地に足を運び、農家との信頼関係を築いている。

Tony's Chocolonely in Ivory Coast_11

Image via Tony’s Chocolonely

四つ目は、農家とは最低5年という長期的な関係を築くことだ。農家は継続して割増し収入を得ることができるため、苗や器具、研究などに安心して長期投資することができる。児童労働や違法な労働について一緒に考えるためにも、こういったコミュニティ内での信頼関係は欠かせない。

そして最後の五つ目は、カカオ豆の品質と生産性を高めることである。トニーズチョコロンリーから長期的に割増しされたお金が入るという安心と信頼関係が構築できているので、農家も品質や生産性を高めるための投資がしやすい状況だ。そして利益が増えると、農家のモチベーションも高まるという効果もある。

トニーズチョコロンリーの人気を支える3つの秘訣

トニー氏が一人で始めたトニーズチョコロンリーだが、今ではオランダのチョコレート市場の約20%を占めるほどの人気だ。さらに、アメリカ・ニューヨークやイギリス、ドイツ、オーストリアにも支店を持つなど、世界各国で手に入れることができるブランドにまで成長した。

ここまで人気になった理由は何なのか、Ynzo氏に聞いてみたところ、次の三つに分類できる。

ミッションに焦点を絞ったブランディング

一つ目は、「100%奴隷労働のないチョコレートを作る」という明確なパーパスを持っていることだ。

「僕たちのミッションは理解しやすく、アクションも取りやすい。人々は、チョコレートバーを選ぶだけで、世界を変えるムーブメントの一部になれるんだ。」

そして、大事なストーリーを全部伝えたいから広告費には一切お金を使わず、「100%奴隷労働のないチョコレートを作る」というミッションに焦点を絞ってブランディングをしていることも重要な要因だという。

「例えば、オーガニック農業は大切だけど、知識も必要ですぐに収入の向上につながるわけではなく、奴隷労働へのインパクトはあまり大きくないから、そこを押してはいない。また、僕たちの会社はカーボンニュートラルで、輸送に関してカーボンオフセットをするなど、できることはすべてやり環境にも配慮しているけど、それを伝えすぎはしない。『奴隷労働』『児童労働』という社会面に焦点を当てたいからなんだ。」

他にも、包装紙にはリサイクル紙とFSC認証の木からできた紙を使用したり、リサイクルしやすいようにコーティングを使用しなかったりと、環境と社会に配慮したBコーポレーションも取得している同社。良いことをしていると何でもアピールしたくなってしまうが、自分たちの1番重要なミッションに焦点を絞っているのが、わかりやすさにもつながっているのだろう。

実際、オランダで彼らのチョコレートを買う人の3分の1は、同社のミッションに共感しているからだと言う。

新しいやり方を示し、人々を勇気付けるビジネス

次のポイントは、物事は従来とは違うやり方でも達成できると示したことだ。

「サステナビリティを保つことと、ビジネスとしてもきちんと成立させることは、反対のものではない」とYnzo氏。

「一見相反するように見えるこの二つを両立するには、自分たちの目指すパーパスを信じ続けることがポイントだね。それも、チームメンバー全員がね。」

store

チョコの美味しさと人を惹きつける楽しいデザイン

そしてなんと言っても、商品の美味しさとパッケージなどのデザインが多くの人を惹きつけている。実際、同社の商品の購入理由の3分の1はチョコレートの味が好き、もう3分の1はパッケージやマーケティング、コミュニケーションが好きという理由からだ。つまり、全体の3分の2が、味やパッケージで購入しているのだ。

Tony's chocolonely in Japan

同社のウェブサイトを見るとわかるが、赤やオレンジなど明るくポップなデザインで、ワクワク楽しい気持ちになる。問題を伝えるインフォグラフィックもわかりやすく、人々とコミュニケーションをとり、働きかけていくエンゲージメント重視であるダッチデザインの良さが活きている。また、不均衡なサプライチェーンを示す不揃いなチョコレートの割れ目も、人に話したくなるデザインだ。そして、分厚くしっかりしたチョコレートの味からも、多くの人に好まれる理由がわかる。

不揃いなチョコレートの割れ目

問題解決には、まず「認知」が大事

トニーズチョコロンリーのミッションを知らずに購入する人が多い一方、最終的にはすべての人に、彼らのミッションを知って応援してもらいたいと、Ynzo氏は繰り返し訴えていた。

「問題をわかりやすく伝えるために、簡単で楽しいデザインになっているけど、最後は奴隷労働について認識してもらい消費者を教育したいんだ。問題を解決するには、まず認知することが大事だからね。」

トニーズチョコロンリーの躍進的な活躍もあり、同社がオランダ人消費者を対象に行っている奴隷労働の認知調査では、現在71%の人が奴隷労働の存在について知っているという結果が出ている。また2019年には、同社の数年の働きかけのおかげで、オランダで児童労働を禁止する法律が可決された。

それでも、「まだ十分ではない」とYnzo氏は繰り返す。

「僕たちも、自分たちのサプライチェーンの知らないところで奴隷労働が行われていないように、監視し改善し続けているよ。」

5つの調達原則を守り、できていない箇所も含めすべてを公開し、常に改善を怠らない彼らだが、奴隷労働という非常に大きく根深い問題を目の前にして、ふと、自分が無力に思ってしまうことはないのだろうか。心の脇に湧いてきた疑問を、率直にYnzo氏にぶつけてみたところ、次の力強い答えが返ってきた。

「一人では無力に思えるかもしれないけれど、みんなでやれば、変えられるんだ。だから僕たちは、人々の認知を高め、自らが見本になり、そして業界全体を変えていくことを同時に行っているんだ。」

そして今回、日本の消費者に直接アプローチする初めての機会であるが、人口もチョコレートの消費量も多い日本市場には注目していると言う。

「日本の消費者の皆さんには、『あなたは変化を起こすのに決して小さな存在ではない』と伝えたい。誰でも毎日の買い物でより良い社会に投票し、変化を起こせるんだ。だからまず、僕たちのチョコレートを手にとって食べてもらいたい。そして、僕たちのストーリーを周りの人と共有してほしい。さらに、僕らの署名(※3)に参加したり、シリアスフレンド(※4)になってもらえたら嬉しいね。」

編集後記

一つのミッションを掲げ、誠実に、着実に、自分たちのやるべきことと向き合っているトニーズチョコロンリー。

トニーズチョコロンリーの名前の由来は、トニー氏の名前とLonely(ひとりぼっち)から来ている。最初は、巨大なチョコレート業界のシステムの課題に孤独で立ち向かっていたトニーと仲間たち。マーケットシェア20%を占める今でも、孤独だと感じるのだろうか。

「消費者の間では孤独ではないけど、チョコレート業界ではまだ孤独を感じるね。業界全体で、奴隷労働について認知はしているけれど、まだ十分な行動に移せていないんだ。」

それでも、多くの人が彼らのミッションをサポートしているからこそ、今回日本初のポップアップ店舗が実現した。私たちも、「買い物」という毎日の行動で彼らへの支援を示すことができる。まずは、彼らの商品を買って、応援してみることが、小さいが確実な、100%奴隷労働のないチョコレートへの第一歩になる。

Tony’s Chocolonely期間限定ショップの詳細
有楽町マルイでの期間限定ポップアップの様子

有楽町マルイでの期間限定ポップアップの様子

(※1)FromプラネットVol.95<お菓子に関する意識調査>
(※2)Right Origin
(※3)人権を擁護し、奴隷労働のないサプライチェーンを目指す新たな法律を制定することを、EUとアメリカ政府に求める署名
(※4)登録するとトニーズチョコロンリーが発信する様々な情報にオンライン上で簡単にアクセスできる


【関連記事】強制労働
【参照サイト】Tony’s Chocolonely(日本語サイト)

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November 19, 2020 at 01:00PM
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