■『人口で語る世界史』(著・ポール・モーランド 文藝春秋)
世界最高水準の超高齢社会、日本。これは同時に、人類史上、初めて直面する状況でもある。行政面でも、社会保障制度の整備や財政の持続可能性など、課題は多い。この我が国の人口問題を世界史の中でみると、どのように位置づけられるのか、そんな問題意識で手に取ったのが本書である。
マルサスの人口論が当てはまるのは18世紀まで
本書は、19世紀に入ったころからの200年間をターゲットにしている。10万年とも500万年とも言われる人類史の中で、この200年に焦点を当てているには理由がある。それは、産業革命以降、人類は急激な人口動態の変化に直面しているからである。人口論は突き詰めれば、死亡率、出生率、移民で人口動態を整理できる。この極めてシンプルな構造の中で、この200年の激動の時代を興味深く描いている。
人口論と言えば、マルサスを思い浮かべるが、人口の増加は食料等の生活資源、そしてそれを生み出す土地によって制約されるというこの論理は、18世紀までは当てはまるが、マルサスと同時代に起きた産業革命により、理論的にも実績的にも破綻し、人口は急増していく。
すなわち、産業革命以前、今から考えれば、人類の寿命は短く、乳児死亡率も極めて高かった。産業革命はこの人類を取り巻く環境を大きく変えた。乳児死亡率は劇的に低下し、寿命も延伸を続ける。その後、次第に出生率は低下するが、その間のインパクトにより、人口増加トレンドは続く。そしてその一部が移民となって新たな大陸を開拓していく。この人口動態の激変は英国、アイルランドを含むブリテンに始まり、急増する人口は、軍事力・経済力の基礎となるとともに、大量の移民により、米国、カナダ、オーストラリア等の国家を作っていくことになる。この爆発力はすごい。英語を国際共通言語にしてしまった!
さらに、マルサスの理論を覆す第2波が、ベビーブーム世代である。日本でも団塊の世代として語られるこの現象は、日本の人口動態に大きな影響を及ぼしたが、日本は比較的短期間(3年程度)で収束したのに対し、米国はかなり長く影響が及び、今日の超大国の基礎になっている。
既に、中国、日本、韓国等の東アジア諸国はピークを越え、急速に老いゆく局面にあり、他方、現在、政情不安が続く中東と北アフリカは平均年齢が若く、まさに人口動態の影響を受けている。若さが政治的不安定要素であるともする。そして、今後は、サハラ以南のアフリカにこの大きな波が及んでいく。50年後、世界の勢力地図の変化は、確実な未来なのである。
高齢化の影響が社会保障制度を直撃
この一連の人口動態の変動は、スタートすれば、ある程度長期に亘って予測がつく。他方、人口問題というと、超長期の課題のように考えてきたが、本書を読むと、実はかなり短い期間で変動し、影響も出てくることが実感される。また、最終的な人口増加率が減少局面になるか安定局面になるかで国家の維持という面では大きな違いが出る。そこは人口置換率が安定的に保てるかどうかの水準に依存する。
日本はどうか?産業革命とベビーブーム世代という二つの波の影響をアジアで初めて経験し、大国への仲間入りを成し遂げた。その後の高齢化・人口減少は、先行した欧米諸国を抜き、世界の、そして人類の先頭に立って経験しているのである。戦後構築した我が国の社会保障制度は年齢基準に大きく依拠しており、高齢化の影響をダイレクトに受ける。戦後にスタートした「サザエさん」に登場する定年間際の波平さんは、御年54歳の設定だ。我々は思うより若返っている。65歳から年金生活という人生モデルも変わって当然だろう。全世代型社会保障改革という枠組みの中で持続可能な社会保障制度を構築できるか、全人類的課題だと考えると、行政官としてもやる気が沸く。
経済官庁 吉右衛門
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February 27, 2020 at 03:28PM
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