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Tuesday, August 29, 2023

緊急事態の後に訪れる「持続的危機」にリーダーはどう立ち向かう ... - DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー

緊急事態の後に訪れる「持続的危機」にリーダーはどう立ち向かうべきか

CherriesJD/Getty Images

サマリー:コロナ禍における緊急事態は終わったものの、多くのリーダーは「突発的危機」への対応を続けている。だが現在は「持続的危機」と呼ぶ、これまでと異なる困難な状況にある。リーダーは、この2つの危機の違いを理解し... もっと見る、状況に応じてリーダーシップを切り替えて発揮することで、組織を成功に導くことができる。 閉じる

突発的な危機から持続的な危機へ

 2023年5月、世界保健機関(WHO)は新型コロナウイルスの「国際的な公衆衛生上の緊急事態」を終了すると、ようやく発表した。

 だが、この発表を受けても、多くのリーダーは彼らが背負う重荷を下ろせなかった。緊急事態は終わっても、危機が去ったわけではないからだ。パンデミックの到来という「突発的な危機」から、我々が「持続的な危機」と呼ぶものへと移行したのである。厳しい困難と不確実性が続く期間に入ったことを表している。

 持続的な危機がやっかいなのは、突発的な危機と違ってシグナルが曖昧で、スタート時点が明確でない状態で始まる点にある。突発的な危機への対応で優れた手腕を発揮したリーダーでも、いまこの瞬間に必要なことを見逃してしまうおそれがある。さらに困ったことに、突発的な危機において効果的だったリーダーの行動が、持続的な危機の際には燃え尽き症候群(バーンアウト)を増幅させたり、その適応を制限してしまうおそれもある。

 筆者らは、突発的な危機と持続的な危機の重要な違いを特定した。これによって、リーダーがこの先に待ち受ける事態を理解し、組織の方向転換を図る方法についてわかれば、新たな環境下でも成功を収められることだろう。

リーダーにとっての現在の課題

 今日のリーダーは、コロナ禍によって表面化した、多くの複雑に絡み合った問題を抱えている。まずは、従業員の燃え尽き症候群や挫折の問題だ。

 マネジャーはハイブリッド会議を運営し、在宅勤務を導入してきたが、万人を満足させられるはずもなく、明確な指針を切望している。教育現場の指導者たちは学校での銃乱射事件や、急増する子どものメンタルヘルスの問題に向き合い、市の指導者はダウンタウンの空洞化問題に直面している。こうした例は挙げればきりがない。多くの意味で、現在の状況は、3年前に人類を襲った予期せぬ事態に負けず劣らず深刻なのだ。

 ただし、違いはある。トップクラスの小児専門病院シックキッズのCEO、ロニー・コーンを例に取ろう。

 コーンは2019年にCEOに就任すると、小児医療分野の精密医療に関する刺激的なビジョンを掲げた。彼の病院は、子どもの健康に関するあらゆる領域(遺伝子、生物学、環境)のデータを統合し、小児医療を劇的に進展させることを目指していた。それは小児科医であり、著名な遺伝学者でもあるコーンにとって、個人的にも意味のあることだった。そこに襲いかかったのがコロナ禍だ。当然ながら、彼の計画はもはや最優先課題ではなくなってしまった。

 3年後、コーンはみずからのビジョンに再び取り組もうとしたが、その矢先、今度はインフルエンザと新型コロナの流行が重なり、組織を再び圧迫した。そんな状況で、彼のビジョンはどんな役割を果たせるだろうか。疲弊したスタッフには何が必要なのだろうか。

 これは、コーンだけに降りかかった問題ではない。持続的な危機において、問題はより曖昧になり、明確なトレードオフも見えなくなっていく。当初の活気づいた状況は終わり、組織内の資源(リソース)の蓄えも枯渇していく。だからこそ、持続的な危機という新たな課題に向き合い、それを乗り切るために、いまこそリーダーシップが必要なのだ。

それまでと何が異なり、なぜ重要かを認識して言語化する

 リーダーは、突発的な危機と持続的な危機の違いをチームに理解させ、新たな事態をうまく乗り切るための正しいマインドセットを養う必要がある。

 突発的な危機が生み出す緊急事態を想像してみてもらいたい。2020年3月の新型コロナによる死者数の急増、あるいは2010年のチリの鉱山崩落事故のように、予測不可能で、即座に対応が求められる危険な状況である。突発的な危機においては、被害を抑えるという明確な責務がある。利害関係は明白で、時間は限られている。何の手も打たないほうが明らかにリスクが高いため、リスク許容度はその状況に応じた水準にまで高まる。

 一方、持続的な危機は違う。著しい困難やトラブル、不確実性が継続するこの期間には、直近の被害を防止することよりも、むしろレジリエンス(再起力)の構築が主要な目標となる。微妙な利害関係が生じて、時間軸は長期化し、リソースも乏しくなる。熟慮に基づいた意思決定に戻ろうとする動きが生じ、リスク許容度は低下する。

 人間の反応も変わってくる。突発的な危機の際には恐怖心が高まり、脅威に囚われ、「自分たちは大丈夫だろうか」と考える。一方、持続的な危機では、問題が延々と続くため、「もうどうでもいいのでは」という思いが生まれる。自分たちの世界がどれほど深く変わったことに気づいたせいで、過去を懐かしく思い、周囲から切り離されて漂っている感覚に陥るのかもしれない。

迅速な対応から意図的な積極性の発揮へ

 突発的な危機に有効なアプローチは、持続的な危機に通用しない。後者においては、リーダーは迅速な対応ではなく、意図的に積極性を発揮する必要がある。

 緊急事態において何より重要なのはスピードであるから、全員に関わる問題については一元的な意思決定が求められる。

 2020年3月に各社のCEOが在宅勤務を即決したことを思い浮かべてもらいたい。筆者らが所属するハーバード大学の学長は、3月13日、患者のケア担当など物理的にその場にいなければならない人を除く全員に帰宅を命じた。授業をバーチャルで行うか否かの判断を、個々の教員やチームに委ねることもなかった。こうした判断の一元化とスピードは、分権型の自治と参加型の意思決定を規範としてきた大学という環境においては異例のものだったが、危機的状況という理由で全員に受け入れられた。重要なのは決断力と実行のスピードだ。そしてもちろん、その実現方法を模索する役割は個人やチームに任せられた。

 このアプローチを続ける、という選択肢は魅力的だ。問題解決のために決断を下し、大胆な行動を命じるのは、よい気分に違いない。しかし、持続的な危機においてもこのアプローチを続けると、人々を疲弊させていら立たせ、重要なことよりも緊急なことを優先する習慣をつくり上げてしまう。しかも、このアプローチが長く続くと、多くのリーダーがその役割を担うことになったそもそもの目的、つまり、将来に関する説得力のあるビジョンが失われてしまう。

 対照的に、持続的な危機の際に求められるのは、大規模な実験的な取り組みと現場での意思決定によって、多岐にわたる優先事項に人々を巻き込み、一元化しないやり方で新たな解決策を見出すことである。迅速に行動することよりも、いったん立ち止まって学び、探求し、試行することが重視される。

 突発的な危機の際に実験的な取り組みは必要ない、という意味ではない。パンデミックの最中に多くの組織は、現場での実験的取り組みや学習を前例のないレベルで推し進めて危機を乗り切った。ただし、目標を絞るための指示はトップから降りてきて、交渉の余地がないケースも多かった。

 たとえば、ある病院が選択的手術(命に関わるような緊急性が低い手術)を中止した際、スタッフは目標を再検討し、肺疾患の集中治療室を増やす工夫を凝らした。その結果、実験的な取り組みと(時に痛みを伴う)学びが生まれた。

 突発的な危機の際には多くのリーダーが天性の能力を発揮し、主導権を握ることが正しいと感じ取る。一方、そのアプローチをいつ、どのようにして手放すべきかを知るのは難しく、判断力と慎重さが要求される。

 筆者らの一人(ミカエラ)が最近ロンニ・コーンと交わした会話の中で、彼はこう振り返った。「パンデミックの初期には、自分が船長になるべきだとわかっていました。しかし、危機が進展し、変化が続いているいま、私には複数の役割があるのです」

 彼はその変化を察知し、それに合わせて自身も変化した。直近のニーズに対応しながら、大きなビジョンを取り戻す方策を見出したのである。彼は組織の最前線で熱心に話に耳を傾け、積極性に満ちた企業文化を再構築した。

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